マイナス金利解除 国民取り残さない政策を(2024年3月26日『琉球新報』-「社説」)

 日銀は大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策の解除を決めた。賃金と物価がそろって上がる好循環が強まったと判断した。2007年以来、17年ぶりの利上げだ。

 「異次元緩和」からの脱却だが、急激な物価高の抑制や円安の歯止めになるかは未知数だ。日銀は国民の生活を最優先に、利上げの効果や影響を丁寧に検証し、国民が取り残されないように金融政策を主導しなくてはならない。
 日銀の金融政策「異次元緩和」とは、第2次安倍政権の下、13年3月に日銀総裁に就任した黒田東彦氏が導入した大規模な金融緩和政策を指す。安倍政権はデフレ経済からの脱却などを目的に(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略―の「三本の矢」を同時に推し進める「アベノミクス」を提唱した。
 この経済政策の柱の一つとして「大胆な金融政策」が強力に推し進められた。だが、目標とした物価上昇2%や賃金上昇はアベノミクスでは達成できなかった。大規模緩和が必要以上に長引いたことで、円安や国債市場の機能低下などマイナス面も散見された。識者からは「政治的なアピールに過ぎなかった」と評価された。
 しかし、新型コロナウイルス禍で経済活動が落ち込むなど、経済環境が一変したことで事情が変わった。23年にコロナ禍が収束すると、今度は米欧を中心に需要がV字回復し、物価が高騰した。
 県内でも経済活動が再開し需要が拡大したものの、日米の金利差拡大や円安などで仕入れ価格が上昇した。物価上昇はウクライナ危機などによる穀物市場の需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰に伴う輸送費上昇によるものだ。23年消費者物価指数は前年比3・6%増の106・1である。県民生活を豊かにするどころかひっ迫させている。
 一方、限りなくゼロに近い預金金利が「貯蓄よりも投資」という空気を醸成したのも確かだ。株価は日経平均で初めて4万円の大台を突破するなど、過熱相場が続いている。バブルの再来にならないよう注視が必要だ。
 日銀がマイナス金利解除の目安とした「賃上げ」についても、全国では昨年を上回り満額回答も相次ぐ。だが、価格転嫁が十分に進まない中、小規模事業者が99%以上を占める県内では厳しい状況も予想される。輸送費の上昇などで食料品を中心に値上げの流れは今後も続くことだろう。
 10年余にわたった大規模な金融緩和策とコロナ禍からの急激な需要回復は、体力のある企業にとっては好決算をもたらし、投資家の利益につながった。一方で、物価高で多くの県民が苦境に陥っていることも忘れてはならない。
 歴史的な転換点となった今回の利上げを、県民生活を守り、より豊かにする金融政策の着実な実施に向けた出発点とすべきだ。