女性を縛る「呪い」の言葉は世にあふれている…解放されるためのカギは「シスターフッド」(2024年4月28日『東京新聞』)

 
 「女の敵は女」「女性同士はいがみ合う」―。ジェンダーを研究する大阪公立大客員研究員の荒木菜穂さん(46)は、対立をあおってきたこうした言葉の数々を女性を縛る「呪い」と位置づける。呪いの言葉によって立場の異なる女性が分断されることに抗(あらが)い、連帯するための「シスターフッド」の大切さを聞いた。(安藤恭子

◆「DVは躾、殴られても仕方ない」と思わされていた

女性同士が連帯する「シスターフッド」が大切とする荒木菜穂さん=大阪市内で

女性同士が連帯する「シスターフッド」が大切とする荒木菜穂さん=大阪市内で

 荒木さんは大学の講義でフェミニズムに出合い、1995年ごろから急速に広まったドメスティックバイオレンス(DV)という言葉に関心を持った。「DVは昔からあった問題のはずなのに、これまではどう扱われてきたんだろう」と考えて卒業論文のテーマにした。
 社会問題化される以前、DVは「夫婦げんか」や「躾(しつけ)」とみなされていたが、報道をたどると殺害などに発展する事件も起きていた。「夫に従わない妻が悪い、殴られても仕方ない、と思わせる『呪い』がはびこっていた」と振り返る。
 女性を取り巻く社会の呪いは数多い。今年1月、自民党麻生太郎副総裁が講演で上川陽子外相について「おばさん」「そんなに美しい方とは言わない」と述べつつ「新しいスター」と持ち上げたことが「ルッキズム(外見至上主義)」と波紋を広げた問題もその一例だ。
 記者会見で見解を問われた上川氏は「さまざまな意見があることは承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と受け流し問題を沈静化させた一方、国会では「なぜ抗議しないのか」と指摘もされた。

◆旧ジャニーズの問題も権力者による「加害」

 日本で初めて職場のセクシュアルハラスメントを問題とした損害賠償請求訴訟が、福岡地裁に起こされたのは89年。裁判を機に「セクハラ」と略されて概念が広まり「新語・流行語大賞」新語部門金賞にも選ばれた。「女性学やフェミニズムは、男性中心主義の社会構造を解く手だてとなる学問。言葉ができることの大切さを感じている」と荒木さんは言う。
 「売春」は長く性を売る側の社会的問題とされてきたが「買春」という言葉ができて買う側の問題へと変わった。昨年クローズアップされた旧ジャニーズ事務所の問題は、元社長による「性加害」と報じられた。「被害ではなく権力者による加害に焦点が当たることで、呪いが解かれていった」とみる。

◆独身か既婚か、バリキャリか主婦か…立場の違いで分断

 86年の男女雇用機会均等法施行の後は、女性間のいわゆる「女女格差」も顕著になった。独身か既婚か。バリキャリか主婦か。子どもをもつかもたないか。資産は多いか少ないか―。立場や年代の違いで分断させられ、社会の課題に団結して向き合えない状況は続いている。
 国連が女性の地位向上を目指して設けた「国際婦人年」から来年で50年。荒木さんは初めての単著「分断されないフェミニズム」(青弓社)を昨年末に刊行し、異なる立場の女性たちがほどほどに緩くつながる「シスターフッド」を提唱している。
 シスターフッドを「一緒に社会を見る仲間」と定義づける。「女だから分かり合えるというのは困難であっても、自分が主語であることを忘れず他者を尊重していく中で、社会の差別構造を変えるために共に声を上げていければ」