「企業の経済活動にブレーキをかける恐れ」 経済安保法案の課題を政府会議メンバー・清水勉弁護士に聞く(2024年4月28日『東京新聞』)

 参院で審議中の重要経済安保情報保護法案は、政府による機密情報の指定や、身辺調査を伴う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が盛り込まれており、特定秘密保護法の「経済安保版」といえる。特定秘密に関する政府の情報保全諮問会議のメンバーで、情報法制に詳しい清水勉弁護士に法案の問題点などを聞いた。(大杉はるか)
 しみず・つとむ 1953年、埼玉県生まれ。日本弁護士連合会の秘密保全法制対策本部事務局長として2013年に特定秘密保護法に反対。14年から政府の情報保全諮問会議メンバー。特定秘密や適性評価の運用基準策定に関わり、毎年、特定秘密の指定・解除状況をチェックしている。
 
キャプチャ
経済安保法案について語る清水勉弁護士
 
 特定秘密保護法と、経済安保法案の違いは。
 「特定秘密保護法は、20世紀の戦争やスパイ活動を想定した面があり、昭和っぽい古さがある。経済安保上の機密情報は、昭和的な秘密とは違うのでは」
 ―具体的には。
 「国の存立には戦争に負けないだけでなく、その国の経済活動の基幹インフラを守ることが大事。特定秘密は旧来の国家観で大枠のイメージができるが、経済安全保障は経済のグローバル化を受けた新しい課題だ。経済安保上の機密指定は企業の経済活動にブレーキをかける面があるので、運用はかなり難しいと思う」
 ―その理由は。
 「機密指定の運用は、国側が一方的に行うのではなく、情報を扱う民間側から求めるか、官民で協議した上で行うようになるだろう。国が不意打ち的に指定すれば、民間の経済活動の自由を著しく損なうことになるからだ」
 ―経済安保情報を機密指定する基準は、漏えいが「国家安全保障」に支障を及ぼすかだ。
 「第2次世界大戦後、敵対国だった独仏両国は重要物資の石炭や鉄鋼を共同管理する会社をつくった。経済的に手を結ぶことで、相互に戦争を仕掛けにくくした。法案では、国家安保と経済安保は一体のものとして考えているが、これからの時代の経済安保はどうあるべきなのかを多面的に議論していくべきだろう」
 ―経済安保情報を管理する必要性はあるか。
 「現時点では恐らくあるのだろう。しかし、誤った指定は関係企業に大ダメージを与えるだろうし、国民にも直接間接の被害が及ぶ。だから、この法律による秘密指定は、かなり限定的に行われ、厳格に運用される必要がある」
 ―機密情報を扱う人を身辺調査する適性評価の対象が民間に大きく広がる。
 「特定秘密保護法でも民間人は対象になっているが、身辺調査の項目は国によってかなり違いがある。日本が突出して詳細ということはない。特定秘密の漏えい事案をみると、管理がルーズだったり、組織内の上下関係が影響していたりしたもので、借金や飲酒癖などは関係がない。外部に出せないようにする運用ルールの周知徹底や施設管理こそが重要だ」
 情報保全諮問会議 特定秘密保護法の成立を受け、2014年1月に設置された有識者会議。特定秘密の指定・解除と適性評価の運用基準を作成、変更する際や、政府が毎年、特定秘密の運用状況をまとめる際に意見を述べる。特定秘密の内容は見られない。24年3月現在の構成員は7人。座長は読売新聞グループ本社の老川祥一会長。重要経済安保情報も、政府は法成立後に有識者の意見を聞いて運用基準を作る予定。