ガザ停戦決議否決 人道危機を高める政争(2024年3月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 即時停戦を遠のかせる大国間の政治的争いである。

 イスラエル軍イスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナガザ地区の情勢を巡り、国連安全保障理事会が米国提出の決議案を否決した。米国が「即時停戦」の文言を初めて自ら盛り込んだのに対し、常任理事国のロシアと中国が拒否権を行使した。

 イスラエルは約150万人の避難民が集まる地区南端のラファに、地上侵攻する構えを崩していない。必要なのは即時停戦だ。拘束力がある安保理決議は国際的な圧力を強める狙いがあった。

 イスラエル支持を続ける米国はハマスの奇襲以降、ガザ情勢を巡る安保理決議案に拒否権を4回行使してきた。特に「即時停戦」の要求は、外交努力を損なうとして反対してきた経緯がある。

 今回姿勢を転じたのは、戦闘の長期化でガザでは民間人の犠牲が増加して人道危機が深刻化し、米国内外で批判が高まっているためだ。今秋の大統領選を控えて、バイデン政権は国内世論に敏感になっている。

 ガザでは食料や水も極端に不足し人道危機が深刻化し、人口の4分の1に当たる57万人余が飢餓の一歩手前の状態にある。ラファへの地上侵攻は想像を絶する惨事になりかねない。

 米国提出の決議案は、ガザに支援物資を届け、全ての住民を守るためには「即時かつ持続的な停戦が必須」と訴える内容だ。

 これに対して、ロシアと中国は「無条件停戦を求める内容になっていない」として拒否権を行使した。米国は「決議を提案したのが米国だという理由だけで反対した」と反発している。大国が主導権争いをしている状況ではない。

 バイデン米大統領は18日にイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、「深い懸念」を表明。ブリンケン国務長官も22日にイスラエルを訪れて同首相と会談し、侵攻反対を伝えている。

 ネタニヤフ首相は代表団を近くワシントンに派遣して、地上侵攻の代替案を協議することには同意している。ただし、「ラファ侵攻なしでハマス壊滅はできない」とも述べており、溝は深いままだ。

 戦闘休止と人質解放を巡りカタールで続いているイスラエルハマスの間接交渉も、合意の見通しは立っていない。

 国際社会は侵攻を阻止するため、あらゆる努力をするべき局面だ。米国は軍事援助の停止なども含め、停戦への道筋を付けなければならない。