ゴジラ誕生の背景を知るのもいい(2024年3月26日『東奥日報』-「天地人」)

 水爆。人類が発明した最大の凶器ともいえる存在を知ったのは小学生の頃だ。新聞を読んでと答えれば格好がつくのだろうが現実は違う。映画で覚えた。「ゴジラ」シリーズである。

 冬休みの子供をターゲットに公開されるゴジラ映画に、母がよく連れて行ってくれた。当時の映画館は空調が悪く決まって頭痛に襲われたが、それでもゴジラの圧倒的破壊力に興奮した。強さこそ正義だと思った。そんなヒーローが水爆実験の落とし子と知った時のショックときたら…。

 考えてみたら第1作(1954年)のあおり文句は「水爆大怪獣映画」である。この年、中部太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で米軍が水爆実験を強行。マグロ漁船の第五福竜丸が被ばくし社会問題となった。反核とでも呼ぶべき世相の中でゴジラは構想され、人類が生み出した恐怖の象徴として描かれた。放射線を吐き散らすゆえんである。“強さ”の秘密は核への恐怖にあったのだ。

 この水爆実験の悲惨さを伝える施設を昨年訪れた。同諸島の首都マジュロにある博物館で被ばく住民の苦しみを写真を通して訴えていた。58年まで67回にわたって各種の核実験が行われたとも。

 世界に衝撃を与えた水爆実験から70年。ゴジラ映画の最新作がアカデミー賞視覚効果賞を獲得した。めでたいのはもちろんだが、これを機にゴジラ誕生の背景を知るのもいい。