映画と核兵器 スクリーンは警告する(2024年3月30日『東京新聞』-「社説」)

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 原爆を開発した科学者の苦悩を描く米国の映画「オッペンハイマー」=写真=が日本で公開された。今年の米アカデミー作品賞を受けた話題作だ。ロシアと並ぶ「核兵器超大国」の映画人がこの作品を製作した意義は、極めて深い。
 主人公のオッペンハイマーは、第2次世界大戦中の米国で、原爆の開発に中心的な役割を果たした実在の人物。その悔恨から、戦後は水爆の開発に反対して、公職を追放される憂き目にあった。
 米国で活躍するクリストファー・ノーラン監督が、こうした自国の「負の歴史」と真摯(しんし)に向き合った姿勢には、率直に学びたい。
 特に近年の日本では、戦前や戦中にあった不都合な史実を覆い隠す風潮や、科学者を軍事研究に従事させようとする動きが強まるだけに、なおさらだろう。
 今年のアカデミー賞ではまた、日本の山崎貴監督の「ゴジラ-1・0(マイナスワン)」が、視覚効果賞を受けた。巨費を投じて、最先端のデジタル技術による迫真の映像が量産される世界の趨勢(すうせい)の中、日本映画の伝統の特撮技術もいかし、「手作り」感覚で高い効果を上げている意欲作だ。
 だが忘れてならないのは、この映画もまた、日本の戦災と「核の恐怖」を色濃く描くことだ。
 初代ゴジラの登場は1954年で、広島や長崎には原爆の爪痕がまだ生々しかった。さらに同年、太平洋ではマグロ漁船「第五福竜丸」が米国の水爆実験のため被ばくする恐ろしい事件が起きた。
 「水爆実験で眠りから覚めた巨大怪獣が、日本を襲う」という映画「ゴジラ」の設定は当時、圧倒的な衝撃を与えたのだ。以来日本の映画人たちは「ゴジラ」のシリーズに真剣に取り組み続け、「ゴジラをどう描くか/どう見るか」は、この国の映画界にあって一つの試金石となってきた。
 優れたエンターテインメントである映画は、一方ではまた、その時代の世界のありようや問題点を映しだし、スクリーンには同時代への鋭い批判や警告が明滅する。世界最高水準にある二つの映画の映像表現を堪能しつつ、その警告にもしっかり耳を傾けたい。