医師の働き方改革 患者へのしわ寄せを防げ(2024年3月26日『産経新聞』-「主張」)

 
NICUで忙しい日々を送る遠藤真美子医師(手前)=千葉市中央区千葉大医学部付属病院(画像を一部処理しています)

 医師の時間外労働に上限を設けて規制する「働き方改革」が4月から施行される。

 平成31年4月に働き方改革関連法が施行されたが、医師の場合は地域医療への影響が大きいことから、適用が5年遅れた。

 医師に設けられる時間外労働の上限は、一般の年720時間より多い原則年960時間で、地域医療を担う病院の勤務医や研修医らには例外的に年1860時間まで認める。休息時間の確保などを義務付けるとはいえ、一般的な過労死ラインの2倍にあたる水準だ。

 医療現場の厳しい実情に照らせば、医師の負担軽減は喫緊の課題だ。ただし医師の確保が難しい地域もあり、働き方改革で患者へのしわ寄せがあってはならない。特に救急医療は、医師の派遣引き揚げによる縮小も予想される。都道府県と医療機関は連携し、患者に影響が出ないようにすべきだ。

 政府はこれまで、法改正により検査技師や救急救命士らの業務範囲を広げ、医師の業務の一部移管を進めてきた。年960時間超の時間外労働を行う勤務医の割合は、令和元年には約4割だったが、4年には約2割に半減した。

 しかし、一般労働者の水準には遠く、長時間労働が常態化しているのが実情だ。

 医療現場は、さらなる働き方改革に取り組む必要があろう。年1860時間の例外規定についても、政府は17年度末までの解消・縮減目標を掲げているが、可能な限り前倒ししてもらいたい。

 患者にもできることはある。かかりつけ医を持ち、不要な救急受診を控えることは勤務医にとっても負担軽減になる。医師が睡眠不足や疲労状態で手術や治療にあたるようでは安全性は心もとない。

 抜本的な医療体制の改革も不可欠だ。診療科や地域による医師の偏在は長年手付かずになっている。まずは、地域ごとの医療機関の配置や役割分担の見直しを急ぐべきである。

 人口減と高齢化により、地域によって必要とされる医療は変化している。都道府県と医療機関が地域の需要を共有し、危機感を持つことが第一だ。改革の過程では、例えば救急医療に応じられない複数の病院を統合し、医師を集約することなども検討しなければならない。

 

医師(NICU医)

千葉大