医師の残業規制/救急医療への影響回避を(2024年2月26日『神戸新聞』-「社説」)

 勤務医の残業時間を規制する「医師の働き方改革」が4月に実施されるのに伴い、救急医療が逼迫(ひっぱく)するのではとの懸念が高まっている。忙しい職場の労働時間を減らそうとすると、対応できる医師が実質的に減ってしまうためだ。混乱を避ける対策を急がねばならない。

 働き方改革は改正労基法など関連法に基づき2019年4月に実施されたが、患者に対応する「応召義務」への配慮で医師は5年間の猶予を与えられていた。4月以降は原則、残業の上限が年960時間になる。

 重篤な患者に対応する「3次救急」を担う基幹病院などでは長時間労働が常態化し、これまでたびたび労働基準監督署の是正勧告を受けてきた。抜本的な対策が不可欠だ。

 兵庫県は24年度当初予算案に、大学病院から基幹病院などへの医師派遣の費用として4億7千万円を盛り込んだ。県医務課は「県内の16病院を対象に計30人の派遣を見込む」とする。派遣元の業務効率化のため、情報通信の設備整備を支援する費用2億5千万円も計上した。


 3次救急が逼迫すれば「最後のとりで」が揺らぎかねない。機能不全を招かないよう、国や自治体、医師会などが連携して影響を見極め、必要な対策を講じる必要がある。

 休日や夜間に軽症患者を診る1次救急への影響も危惧されている。

 姫路市休日・夜間急病センターでは、内科、小児科ともに当番の約8割を神戸大の派遣医とアルバイトの医師が支えている。所属先が総労働時間の削減に迫られ、これらの医師を引き揚げる可能性がある。

 姫路市医師会の石橋悦次会長は「医師会所属の医師の負担増も協議しているが、外部の応援が大幅に減った場合、当番を回すのは難しい。診療を縮小せざるを得ない」と話す。

 1次救急の機能が低下すれば、入院が必要な患者に対応する2次救急や3次救急の負担が増し、重症患者の搬送が滞る恐れもある。

 姫路市は1月から、救急医療の負担を減らすため、傷病の緊急度を判断する24時間対応の電話相談を始めた。同様の制度は神戸市と芦屋市にもあるが、阪神間など都市部でも未整備の自治体は多い。


 22年以降は兵庫県内各地で救急患者が急増し、神戸市消防局や加古川市消防本部では出動件数が2年連続で過去最多を更新した。搬送に時間がかかる事例も多く、不要不急な救急要請を減らす取り組みが急務だ。


 救急医療を担う人材の不足を解消するには、長期的な対策も欠かせない。幅広い傷病をカバーする外科、内科の医師不足も救急の逼迫の要因だ。必要な人員を確保できる養成システムに改める必要がある。