医師の偏在ならす強力な政策を今こそ(2024年3月13日『日本経済新聞』-「社説」)

 医師は地域や診療科による偏在が大きい
 2026年度以降の医学部定員をどうするのか、厚生労働省の議論が本格化してきた。今の定員を維持すると30年ごろから医師の総数が過剰になると見込まれるためだ。医学部定員を減らしつつ、医師を適正に配置するための強力な対策が必要になる。

 24年度の医学部定員は約9400人。高齢化による医療ニーズの増加に対応するため、08年度から地域枠を増員するなどして過去最多の水準を維持してきた。

 08年に約28万人だった医師の総数は約34万人まで増えており、厚労省働き方改革で医師の長時間労働を抑える前提を置いても、早ければ29年ごろに約36万人で需給が均衡すると推計している。

 ただ外科や救急科、産科など、医師確保に苦しんでいる医療現場が多いのも事実だ。東北地方や信越地方など深刻な医師不足が続いている地域も少なくない。こうした診療科や地域の医療は現場を支える医師の長時間労働で何とか持ちこたえているのが実情だ。

 24年4月から医師の長時間労働に罰則付きの上限が科される「2024年問題」への対応を考えても、外科などの医師を確保する対策は急務といえる。

 総数が増えているのに医師不足の問題がなくならないのは、医師の配置が偏っていることに原因がある。激務の外科や救急科などを敬遠し、勤務地も東京など大都市を希望する医師が多いからだ。

 こうした実態を踏まえ、病院には医学部の定員減に反対する声が強いが、需要を上回る医師の養成には賛同できない。

 医師数が過剰になると個々の医師の生活基盤が不安定になり、過剰な検査など不適切な医療需要を掘り起こす事例が増える懸念がある。医療費の増大で国民負担が重くなる要因になりかねない。

 必要なのは医師の偏在を是正する実効性のある施策だ。政府はこれまで医学部に地域枠・地元枠を設けたり、専門医資格の取得を目指す専攻医の受け入れ数に地域上限を設け、医師不足地域に誘導するシーリング制度を導入したりしてきた。だが、これらは偏在是正の決め手にはなっていない。

 こうした施策を深掘りしつつ、医師の専門や勤務地の選択にある程度の制限をかける検討も始めるべきではないか。医師の報酬は公的な資金で支えられている。公益の観点から、より踏み込んだ対策も視野に入れるべきだ。