医師の働き方 国は過重な負担を放置するな(2024年3月10日『読売新聞』-「社説」)

 勤務医の過酷な長時間労働によって医療体制が維持されている現状は、健全とは言えない。各医療機関働き方改革に取り組むとともに、国は指導を強化することが重要だ。

 4月から、勤務医の残業時間を規制する「医師の働き方改革」が始まる。2019年に施行された働き方改革関連法では、医師については影響が大きいとして、実施を5年間先送りしていた。

 昼夜を問わず治療にあたる勤務医は、長時間労働が常態化している。心身ともに疲弊して勤務医を辞める人もおり、さらなる医師不足を招く悪循環が生じていた。

 働き方改革の柱は、現在は青天井となっている残業時間に上限を設けることだ。原則として年960時間が上限となり、違反すれば病院に罰則が科される。長時間働く医師を指導するなど、医療機関に健康管理も義務づける。

 医師が疲労を抱えたままでは、注意力が落ち、医療ミスが生じかねない。医師の働き過ぎを防ぐことは、医療機関の責務だ。

 一方、地域医療を担う病院の医師や研修医らは、例外的に上限を年1860時間とする。医師の確保が難しい地方の事情や、技能を身につけたい若手の希望に配慮するためだという。

 だが、この上限は月155時間の残業に相当し、月80時間の「過労死ライン」を大きく上回っている。過酷な労働を追認するかのような基準で、これでは医師の健康を守れるのか疑問が拭えない。

 厚生労働省の調査では、病院の常勤医のうち、22年の残業が年960時間超だった医師は21%、年1860時間超は4%だった。いずれも19年より半減したものの、なお一部の医師に過重な負担がかかっているのは間違いない。

 見過ごせないのは、夜間や休日に医師が待機する「宿日直」を、勤務時間から除外しようという動きが広がっていることだ。労働基準法の特例扱いの許可を申請する病院が増えている。

 さらに、勉強会への参加や論文作成などにあてた時間は「自己 研鑽けんさん 」と位置づけ、労働時間に含まない慣行もある。

 こうした運用を改めなければ、医師の働き方改革は形骸化しかねない。国が、医療界全体を厳しく指導することが不可欠だ。

 勤務が不規則な救急や産科などの診療科は敬遠されがちだ。都市部への医師の集中も、長年の課題だ。勤務医の待遇改善や医学部の定員増も含め、政府は総合的な対策を検討する必要がある。