痛ましい悲劇が繰り返し起きている。なぜ、幼い命を救うことができなかったのか。事件の解明とともに、関係機関の対応について徹底的に検証し、今後の対策に生かしてもらいたい。
八戸市で1月、長女の宮本望愛(のの)ちゃん(5)に水を浴びせて浴室に放置し、低体温症で死亡させたとして、青森地検は今月、保護責任者遺棄致死罪で母親と、同居する内縁の夫を起訴した。
母親ら2人は、服がぬれたままの望愛ちゃんを約4時間半にわたって浴室に放置したとされる。通報で県警が到着した際、室温は10度以下だったという。
2人は「しつけ」と称し、同様の行為を繰り返していたと供述。望愛ちゃんの体には複数のあざもあり、日常的に虐待されていたとみられる。
この事件では、青森県八戸児童相談所(児相)が昨年7月と9月の2回、児童虐待の通告を受けていたが、女児や母親らと10月末に1度面会しただけで、11月末には指導を終えている。
国は原則として、通告から48時間以内に児相や関係機関が直接、子どもの安全を確認する「48時間ルール」を指針として掲げる。
八戸児相は女児との面会を試みるが拒まれ、結果としてルールは守られず、親から子を引き離す一時保護もなされなかった。八戸児相は「他の子どもの通報が相次ぎ、そちらを優先してしまった」と釈明している。
こども家庭庁によると、全国の児相が2022年度に対応した虐待相談は21万9170件と過去最多を記録した。21年度に虐待で亡くなった子どもは50人。児相が問題視していた家庭でありながらも、子どもが虐待死する事案が後を絶たない。
国はこれまでも児相の機能や体制を見直してきたが、増加する相談に現場が追い付いていないのではないか。経験の浅い職員も多く、資質の向上を含め、抜本的な体制の強化が不可欠だろう。
増え続ける虐待相談に対応するため、国は来月、「こども家庭ソーシャルワーカー」という認定資格をスタートさせる。児相などの施設で子どもと接する仕事の経験のある人が対象となる。
新たな資格の取得を通じて職員の専門性を伸ばし、子どもや保護者らへの適切な対応や支援につなげてほしい。
経済的な困窮や予期せぬ妊娠・出産、複雑な家庭環境などは、虐待リスクが高まるとされる。地域や社会全体で子育てを支援し、孤立化を防ぐ取り組みが急務だ。
来月施行される改正児童福祉法では、妊産婦や子育て世帯からの相談に総合的に応じる「こども家庭センター」の設置が市町村の努力義務となった。既に開設され、動きだしたセンターもある。母子保健と児童福祉の一体的な運用に期待したい。