「不徳の致すところ」では済まされない長谷川岳氏のパワハラ騒動 国会議員→自治体職員はレア?(2024年4月27日『東京新聞』)

 北海道が道内選出の国会議員によるパワハラ騒動で揺れている。震源自民党長谷川岳参院議員(53)。道庁職員をはじめ、複数の自治体職員に威圧的な態度を取ったと伝えられる。各地で地方議員のハラスメント防止条例が制定される中、「行きすぎた国会議員」を生まない術(すべ)、たしなめる方法はあるか。(宮畑譲)
 
◆「表現方法が時代にそぐわない」と釈明
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 「不徳の致すところです。私の表現方法が時代にそぐわないものであることを痛感いたしました。以後、時代に即した表現方法に変えて参ります」
 パワハラを疑われる行為や威圧的な態度があったとの報道を受け、長谷川氏はブログでそう釈明した。
 2010年の参院選北海道選挙区で初当選した長谷川氏は、現在3期目。総務大臣政務官や総務副大臣を歴任した。北海道大在学中に「YOSAKOIソーラン祭り」を企画したことでも知られる。
 
◆面談で上京、経費は2000万円
 同氏を巡っては道庁や帯広市の職員らが叱責(しっせき)されるなど、威圧的な態度を取られたと受け止める例があったという。札幌市の秋元克広市長は「かなりきつい調子で言われる方」などと苦言を呈した。
 それだけではない。札幌市では昨年度、長谷川氏と面談などをするために市長や副市長を含め計284回、東京へ出張した。経費は約2000万円に上り、うち72回は面談のみが目的だったという。同氏とのやりとりなどで残業時間が月100時間を超えた職員も。
 道庁でも昨年度、面談などのために20回以上、出張した職員が複数人いた。さらに昨年11月以降、国会で補正予算が成立するなどのタイミングで道幹部がお礼のメールを送り、誰が送ったのかを確認、共有した。他の国会議員に同様の対応はしていなかったという。
 
◆「地元の評判が落ちて選挙に響く」
 「こちら特報部」は長谷川氏に改めて見解を聞こうと、国会事務所に複数回、電話したものの、つながらなかった。ファクスを送信しても、期限までに回答はなかった。
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国会議事堂
 
 驚きと怒りが広まった長谷川氏を巡る問題。国会議員が自治体職員に威圧的な態度を取ったり、むちゃな要求をしたりすることはよくあることなのか。
 自治体での勤務経験もある神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「普通、国会議員と自治体は中央省庁に対する陳情などでタッグを組む。地元の評判が落ちれば選挙にも響く。あまり考えられないケースだ」と解説する。
 一方で、国会議員が自治体職員にハラスメントを行う可能性は「抜け落ちていた視点」だという。
 「『公務員はたたいてもよい』という風潮が行きすぎた結果のような気もする。政治家が公務員を追及することで隠された事実が明るみに出たり、物事が動いたりすることもあるが、職務権限に関係なく、何らかの規定をつくるべきだ」
 ハラスメントに詳しい笹山尚人弁護士は、議員の問題に限らず、昨今の世情としてこう口にする。
 
◆「人間関係づくりが劣化」
 「昔からひどいハラスメントは民事訴訟や刑事事件になる可能性があった。以前からあったことが表面化するようになったのに加え、互いに配慮する人間関係づくりが劣化しているように感じる」
 地方議員のハラスメントについては、多くの自治体で防止条例が定められている。では、国会議員と自治体職員の間で生じる同様の問題はどう対処すべきか。
 笹山弁護士は「必ずしも直接、指揮命令する関係になくても、接触する機会があり、優越的な関係を利用していれば、ハラスメントを否定する要因にはならない」と説明し「対処するルールを具体化する議論が必要だろう」と提唱した。