日経平均株価は3月4日、史上初の4万円の大台に乗った。株価は上がったが、実際の経済はどうなるのか。わたしたちの暮らしへの影響は──。
経済評論家・勝間和代さんに聞いた。AERA 2024年3月25日号より。
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株高が生活実感に直結しないのはなぜか。勝間和代さんはこう言う。 「資産運用でお金が増えるスピードは労働によってお金を得るよりも速いため資本家に富が集中しやすい。つまり労働というカードしか持っていない市民はますます経済成長の恩恵を受けられません。それどころか、物価や様々な資産価値が上がってむしろマイナスの目に遭う、ということです」
そして、今の株高の要因になっているインフレや円安が、格差拡大に拍車をかけている。 「デフレの時代は誰も投資しませんが、インフレの時代は利益が回収できるのでどんどん投資します。結果として格差が広がる方向に動きます。円安やインフレがあると、その傾向は特に加速するのです」 では、市民が恩恵を受ける方法はないのだろうか。
「資本生産性の側に回るしかありません」
そのための手段は二つ。
一つは、実際に金融資産や不動産資産などに投資をすること。もう一つは、資本生産性が高い労働市場で働く、もしくは起業することだ。 「GAFAがなぜあんなに儲かって給料が高いかというと、わずかな人数で大きな利益を上げる、つまり基本的に資本生産性が高いからです」
対して資本生産性が低いのは、例えばサービス業だ。労働集約型で利益が少なくなりやすい。ただ、資本生産性の低い業界でもロボットを使うなどして効率化し、生産性を上げることができる。その一例に、勝間さんはユニクロを展開するファーストリテイリングを挙げた。
「昭和の洋服は値段が高かったですが、生産性の高いユニクロが登場して洋服の価格が変わりました。倒産するアパレル企業があるなか、ファーストリテイリングの株価は上がっています」
仕事を始めるならテクノロジー系企業を勧めるという。 「テクノロジー系の株式はほとんど下がっていません。リスキリングをし、いま好調な半導体関連、資本生産性の高い企業で仕事を始めるといいと思います」 資本生産性の低い企業で待っているだけでは未来はないのか。
「実質賃金の上昇は構造的には厳しいです」
資材の高騰に伴い、企業は商品の価格を上げているが、物価の上昇に実質賃金が追い付いていない。 「会社側が故意に賃金を抑えているというわけではなく、単純に市場価値に見合った賃金しか払えていないのだと思います」
さらに勝間さんは言う。 「なぜ賃金が上がらないのかという構造を考えて、そこから抜け出すしかないんです」
■労働者への投資も
ただ、政治の出番もある。
「経済成長の再分配をどう行うかは政治の役割です。累進課税制度を使うのが一番早い再分配です。金融収入の税率は2割ですが、他の所得と合算して課税される総合課税を使えば、累進課税に近くなります」
しかし現実は、逆方向に向かっているという。 「新NISAも始まり、積み立てができるような富める人がどんどん富む方向に舵を切っています」 「『株価が足元の経済状況を反映していない』といいますが、『反映する』という感覚が間違いです。株価はあくまで日経平均に採用されている会社の将来キャッシュフローを割り引いた金額です。その金額が、そのまま賃金になるかわかりません。株主に還元するか、どこかに再投資するかもしれません。ただ、AIテクノロジーの時代。労働者への投資が選択的になっているのは確かです」
(編集部・井上有紀子) ※AERA 2024年3月25日号
井上有紀子