能登の医療 病院の再建は将来も見据えて(2024年3月22日『読売新聞』-「社説」)

 能登半島北部の医療が危機的な状況にある。高齢化と過疎化が進み、かねて病院の機能維持が危ぶまれていたところに、元日に発生した大地震が追い打ちをかけた。

 まずは当面の医療体制を立て直すことが急務だ。併せて病院の再編など、地域の実情に合った医療を模索していく必要がある。

 地震発生後、輪島市珠洲市など2市2町の公立4病院では、設備の損壊や水不足に加え、被災して出勤できない職員が多く、治療の継続が難しくなった。そのため、入院患者の多くは金沢市などへの転院を余儀なくされた。

 4病院はすでに診療を再開しているが、被災した看護師の離職が相次ぎ、医療体制の維持が懸念されている。3月末までに計60人以上が退職する予定だという。

 十分な医療が提供できない状態では、金沢市などに転院した入院患者や被災地外に避難した高齢者らは、故郷に戻れなくなってしまう。看護師のさらなる離職に歯止めをかけるとともに、新たな人材を確保する対策が欠かせない。

 地元にとどまっている看護師の中にも、住居や子育てなどの悩みを抱えている人はいるだろう。自治体や病院が相談に乗り、支援を拡充することが重要になる。

 石川県の看護協会が、被災地の病院で一定期間働く看護師を全国から募集したところ、40人以上の応募があったという。意欲ある人材を十分に活用してほしい。

 4病院だけでなく、身近な診療所の復旧も大切だ。もともと数が少なかったうえに、診療を縮小したところもある。診療所の建物が損壊し、医療設備を備えた専用のコンテナを診察室代わりに使っている医師もいる。

 医療コンテナは、東日本大震災の被災地で仮設診療所として長く活用された。必要な場所に移動できる利点があり、今後も過疎地の医療に役立つのではないか。

 オンライン診療の拡充で、通院しなくても診察を受けられるような体制づくりも重要だ。

 能登半島北部は以前から人口の減少が著しく、65歳以上の高齢者が50%を占める。今後も4病院がそれぞれ人材を確保し、病院を運営していくのは容易ではない。病院の統合などで、機能を集約することも検討すべき課題である。

 ただ、住民が必要とする時に、医師の診察を受けられない事態は避けなければならない。主要な病院の機能を一か所に集めつつ、規模を縮小した医療機関を地域ごとに残す選択肢もある。