民主主義再興へ地道な努力を(2024年3月22日『日本経済新聞』-「社説」)

 
韓国政府主催の民主主義サミットにオンラインで出席した岸田首相=共同
 

 民主主義を支える公正な選挙は国民が正しい情報に基づいて投票することが前提になる。それを揺るがす偽情報への対策をはじめ、民主主義の活性化には地道な努力が欠かせない。

 韓国政府が主催する民主主義サミットがオンライン形式で開かれた。今年は多くの国で重要な選挙がある。その点を踏まえ、今回の主要テーマに偽情報の拡散対策を据えたのは時宜にかなう。

 サミットの発起人であるバイデン米大統領は「言論の自由、公正な選挙を守るべきだ」と呼びかけた。岸田文雄首相は「偽情報の拡散は各国共通の課題で、国際的な連携が必要だ」と協調を訴えた。

 人工知能(AI)を用いた偽情報で選挙を操作しようとする企てが各国で相次いでいる。米国ではバイデン氏になりすました偽音声が、選挙の投票を控えるよう電話で呼びかけた。4月に総選挙がある韓国でも尹錫悦大統領が登場する偽の動画が広まった。

 ロシアは米大統領選や6月の欧州議会選、中国は1月にあった台湾総統選への介入が取り沙汰されている。こうした試みは民主主義の信頼性を損なうもので、決して許されない。韓国は今回、米IT大手を招いて対策を話し合う場を設けた。官民挙げて対策を急がなければならない。

 中ロなどの権威主義に対抗する目的で始まった民主主義サミットは3回目の今回、米国以外の国が初めて主催した。選挙を強権体制を固めるのに使う国がある半面、民主主義の形態をとらなくても戦略的に重要な国もある。白か黒かを画一的に線引きするようなことは慎まなければならない。

 バイデン氏にトランプ前大統領が挑む11月の米大統領選の結果次第では、サミットが今回で最後になるかもしれない。大事なのはサミットそのものの継続ではなく、法の支配の確立や言論の自由汚職の撲滅といった健全な民主主義を支える多様な取り組みだ。日本も法整備や人材育成などの面で貢献すべきである。