病院で働く医師の過酷な長時間労働の是正につなげなければならない。
4月から、医師の「働き方改革」が始まる。原則として、時間外労働は過労死ラインとされる月平均80時間、年960時間が上限となる。ただし、地域医療を支える病院や教育・研究を担う大学病院は、特例として1860時間まで認められる。
厚生労働省研究班の調査によると、病院勤務医の2割が、年960時間を超えて働いていると推計された。中でも、若手の負担が重い。上司の指示を受けながら診療に当たるかたわら、知識や技能の向上にも取り組まなければならないからだ。
2022年には、神戸市内の病院で働いていた当時26歳の男性医師が、長時間勤務の末、うつ病を発症して自殺した。労働基準監督署は労災と認定し、違法な時間外労働をさせた疑いで運営法人と病院長らを書類送検した。遺族は、損害賠償を求めて提訴した。
死亡直前1カ月の時間外労働が200時間超、連続勤務は100日間に及んだという。救急患者に対応するとともに、学会の準備や研究に追われ、拘束時間が延びたとみられる。
激務によって医師の健康が損なわれるようでは、安全で適切な治療を提供することが難しくなる。医療の質を保ちつつ改革を進めるために、限られた資源の効率的な活用が欠かせない。
長時間労働の一因には、大学病院などから地域の医療機関への医師派遣もあると指摘される。
労働時間を短縮するため派遣医師が引き揚げられれば、診療科が減ったり、急患の診察が遅れたりする恐れがある。そのような事態を招かない対応を考えたい。1人の患者を複数の主治医で担当することで、負担軽減につながる。医師以外でもできる業務は看護師ら他の医療者に任せたり、無駄な手続きを省いたりするなど、工夫できる余地は大きい。病院と診療所の連携拡大も有効だろう。
これまでの病院運営は、現場の長時間労働によって支えられてきた側面が強い。政府や自治体、医療機関は、国民の理解を得ながら、医師を守るための体制整備を急ぐべきだ。