日弁連新体制 「人権を守る砦」として(2024年3月21日『東京新聞』-「社説」)

 
 日弁連の新しい会長に4月1日から元東京弁護士会会長の渕上玲子氏=写真=が就任する。法曹界初の女性トップで、男女共同参画などで手腕の発揮が期待される。何より「人権を守る砦(とりで)」としての指導力を発揮してほしい。
 日弁連には全国の約4万6千人の弁護士が加入し、会長は会員による選挙で選ばれる。渕上氏は2月の会長選挙で当選した。全国に52ある弁護士会のうち、45の単位会で1位の支持を得た。
 女性が会長になるのは1949年の日弁連の発足以来初で、弁護士、検察官、裁判官の法曹三者のトップとしても初めてだ。渕上氏は記者会見で「日弁連男女共同参画を体現する存在として会務に取り組んでいく」と語った。
 渕上氏は選挙公約の柱の一つとして「市民の人権を守る」ことを掲げ、多様性を認め合う社会や選択的夫婦別姓制度の実現、子どもの権利などを挙げた。
 LGBTQ(性的少数者)や外国人の権利、家族と法の在り方、能登半島地震の復興など、さまざまな課題が山積している。日弁連は新会長の公約に基づき、大きな成果を上げてほしい。
 もっとも、多様性が叫ばれながらも、女性弁護士の割合は現在、約20%にとどまる。初の女性トップ就任を機に、司法界への女性進出がさらに進むことも併せて望みたい。
 渕上氏が選挙公約の第一に掲げたのは「立憲主義恒久平和主義を守る」。安倍晋三政権が成立を強行した安全保障関連法は立憲主義に反するとして「廃止を求めていく」と記した。渕上氏は「武力的対抗措置で人々の不安を取り除くことはできない」とも述べる。重要な決意と受け止める。
 立憲主義も平和主義も憲法の根幹だが、近年は敵基地攻撃能力の保有や殺傷兵器の輸出解禁など、政権によってないがしろにされる動きが続き、憲法秩序は危機的状況にある。日弁連にはそうした政策や風潮に抗(あらが)う対抗軸として存在感を示すことを期待したい。
 現会長の小林元治氏は再審制度の改正に向けて尽力した。今年は確定死刑囚の袴田巌さんの再審公判も進む節目の年でもある。「人権を守る砦」として再審制度の改正実現にも取り組んでほしい。