「女性は採用しない」時代から「男女格差」と闘ってきた 渕上玲子弁護士に聞く 弁護士界初の女性トップへ(2024年3月9日『東京新聞』)

 
 4月に女性初の日弁連会長に就く渕上玲子弁護士(69)は、40年を超える弁護士活動で企業や家庭における「男女格差」の問題に向き合ってきた。両性の平等を進めるために今も残る課題や、解決に向けた思いを聞いた。(中山岳)

 渕上玲子(ふちがみ・れいこ) 1983年弁護士登録。東京弁護士会会長、同会男女共同参画推進本部本部長代行、日弁連事務総長などを務めた。東日本大震災の発生後は弁護士による電話相談態勢をつくり、被災地に弁護士を派遣。被災者の法的支援にも力を注いできた。

◆「女性は採用しない」法律事務所も少なくなかった時代

 ―弁護士として、男性との格差を感じたことは。
 
 司法試験に合格した1980年は、司法修習生のうち女性は1割超しかいなかった。「女性弁護士は採用しない」という法律事務所も少なくなかった。同期の男性たちが就職先を決めるなか、自分はなかなか決まらずショックだった。就職した事務所では、依頼は全て受ける姿勢で経験を積み、30代で独立した。
 
女性の権利に関する訴訟について話す渕上玲子弁護士

女性の権利に関する訴訟について話す渕上玲子弁護士

 ―これまで多くの家事事件などを扱ってきた。
 離婚訴訟を含め、夫からのDVや言葉の暴力などで虐げられる女性たちから相談を受けてきた。20年ほど前は、経済的に自立していないために夫と別れたくても踏み切れずに「現状維持」を選ぶ女性もいた。そうした人は、今もどうしているか気にかかる。
 ―近年は女性の働く環境が整ってきたと感じるか?
 私が働き始めた当時に比べれば、大企業を中心に福利厚生が整い、働きやすくなったと思う。一方で業種を問わずセクハラやマタハラの相談は少なくない。一部の企業には、産休明けの女性が勤務時間をセーブして働くと2~3年で閑職に追いやる人事がいまだにある。女性が職場で力を十分に発揮するには、多様な働き方を認めることが重要だ。雇う側の管理職が意識を変える必要もある。

◆選択的夫婦別姓「別姓のみを認めるより選べるほうが平等」

 日弁連は選択的夫婦別姓制度導入も求めているが、なかなか実現しない。
 日弁連の事務総長だった2年前、国会議員たちに制度導入を要請したが、一部議員の慎重論が根強いことを実感した。背景には、明治時代の旧民法下で導入された、主に男性が家族を統率する「家制度」の名残がある。同姓のみか、別姓のみを認めるのではなく、選べるほうが平等だ。今後も実現に向けて訴えていく。
 
日弁連会長として取り組みたい課題について話す渕上玲子弁護士

日弁連会長として取り組みたい課題について話す渕上玲子弁護士

 ―ほかに会長として取り組みたいテーマは。
 男女の平等を考える上で夫婦の問題を扱う家裁の役割は重く、期待している。ただ、調査官らスタッフや施設を含めた態勢は不十分だ。家裁の人的・物的拡充を求めていきたい。
 ―ジェンダー平等に必要なことは?
 
 誰もが生きづらさを感じない社会をつくるには、他者への気づきが大切だ。それは両性の平等に限らず、性的少数者を含めて多様性を認め合うことにつながる。
 
 

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