「民主」指数低下 冷戦時代への逆行防げ(2024年3月21日『東京新聞』-「社説」)

 
 世界で民主主義陣営の退潮が止まらず、権威主義の強権体制が広がっている。公正な選挙、表現の自由、法の支配など民主主義の価値を守る行動が必要な局面だ。
 スウェーデンの調査機関V-Dem(多様な民主主義)研究所は2023年時点の「自由民主主義指数」が1985年の水準に後退したとする報告書を発表した。米国と旧ソ連による東西冷戦時代の状況に戻ったことを意味する。
 調査対象の179カ国・地域のうち、民主主義は91、権威主義は88。民主的な社会で暮らす人々は29%(約23億人)にとどまる一方で、権威主義は71%(約57億人)を占めた。15年連続の増加だ。
 85年当時を振り返ると、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長がジュネーブで米ソ首脳会談に臨み「核戦争に勝者はない」と宣言したものの、冷戦終結への道筋はまだ見えていない時代だ。
 民主主義レベルが40年近く逆戻りした背景には、権威主義国家を代表する中国とロシアが、先進7カ国(G7)と対抗する勢力の結集を進めていることもある。
 中ロとインドなど新興5カ国(BRICS)は昨年、イラン、サウジアラビア、エジプトなど5カ国を迎え入れ、計10カ国に拡大。拡大BRICSはグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の取り込みにも力を入れる。
 グローバルサウスはロシアのウクライナ侵攻に中立的で、統治体制も中ロをモデルにしている。V-Demは「BRICSの拡大はグローバルサウスの代弁者としての地位を高め、国際政治への影響力を強めている」と警戒する。
 今年は60カ国・地域で選挙が行われる「選挙イヤー」だ。
 すでにロシアのプーチン大統領は得票率約87%の「圧勝」で通算5選を演出。インドは4~6月に総選挙があり、ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の3期目が視野に入る。11月の米大統領選ではトランプ前大統領が復活するか否かが民主主義の命運を握る。
 バイデン米大統領主導で2021年に始まった「民主主義サミット」は18日から韓国で3回目が開かれ、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は「自由と人権、法治の価値を信頼する」と演説し、結束を呼びかけた。
 日本を含む民主主義陣営は自らの理念を鍛え直し、人類普遍の価値観を訴え続ける必要がある。冷戦時代に逆戻りしないために。