自民党裏金事件/「解体的出直し」行動で示せ(2024年3月21日『福島民友新聞』-「社説」)

自民党裏金事件/「解体的出直し」行動で示せ(2024年3月21日『福島民友新聞』-「社説」)

 

 派閥による裏金づくりが発覚してから初めての自民党大会が開かれた。岸田文雄首相は総裁演説で一連の事件について謝罪し、政治の信頼回復に向けて「党改革、政治改革を断行する」と述べた。

 東京地検特捜部の捜査に区切りがついてから2カ月となったが、裏金づくりの全容は解明されておらず、政治資金規正法改正の議論も進んでいない。この状況でいくら決意表明を繰り返しても説得力が全くないことを、首相は自覚する必要がある。

 これまで安倍派の元幹部6人が政治倫理審査会に出席したものの、実態解明につながる説明はなかった。2022年にいったん廃止した還流が復活した経緯については証言が食い違ったままだ。

 裏金づくりの疑義が持たれている全議員に政倫審で説明する責任はあるものの、元幹部らのように知らぬ存ぜぬばかりでは、らちが明かない。自民は、野党が求める証人喚問に応じるべきだ。

 首相は茂木敏充幹事長に、事件に関係した議員の処分を指示した。安倍、二階両派の議員計80人規模を4月上旬にも一斉処分する方向で調整している。問題となった派閥の元幹部には「党員資格停止」や「選挙での非公認」を科す案が浮上している。

 元幹部の処分案は、05年の郵政民営化関連法案に絡み、造反した議員が受けた「除名」や「離党勧告」よりも軽い。厳重な処分を回避して党内融和を図りつつ、4月下旬の衆院補欠選挙を見据え、事件の幕引きにつなげる狙いがあるとみられる。

 早くも党内事情を優先する処分案が伝わってきているのは残念だ。首相や党執行部には、内向きの論理と決別し、関係議員の厳しい処分を「解体的な出直し」の出発点とすることが求められる。

 自民は裏金事件を受け、党則などの内規を改正した。政治資金規正法違反で会計責任者の有罪が確定した場合、議員の離党勧告や除名処分を行うなどのルールを新設した。ただ処分には、議員が関与するなど政治不信を招く政治的、道義的責任があると認められるとき―との前提条件がついた。

 政倫審などでの元幹部らの弁明のように、裏金づくりへの関与を否定すれば処分を免れることが可能ではないか。身内に甘い内規しか定められない自民に、規正法を厳格化できるかは疑わしい。

 首相は今国会で規正法改正を実現するとしている。今後示されるであろう自民の改正案が、疑念の目を向ける国民の納得するものでなければ信頼回復はない。

 

衆参両院の政倫審 証人喚問が不可欠だ(2024年3月21日『山陰中央新報』-「論説」)

 巨額の裏金事件が深刻な政治不信をもたらしたことへの自覚や反省は抜け落ち、実態の解明に努力しようという責任感も見当たらない。これが憲政史上最長政権を支えた自民党最大派閥の、保身ばかりが際立つ嘆かわしい「正体」だった。

 衆参両院の政治倫理審査会は安倍派幹部らの弁明と質疑を終えた。しかし政治資金収支報告書不記載などの会計処理への関与を否定し、違法性の認識もなかったと説明。2022年にいったんは派閥からの還流取りやめを決めながら、再開した経緯も「知らない」と口をそろえ、核心部分の解明には至らなかった。自民党内ですら「疑問が残る」との声が上がっており、世論は到底納得しないだろう。

 のらりくらりとかわす姿を許しては、いつまでたっても、真相には近づかない。野党が要求するように、偽証罪も適用される証人喚問に踏み込む時だ。安倍派幹部に加え、さまざまな幹部協議に同席していた会計責任者の同派事務局長の証言も求めたい。

 政倫審でも明らかになったように、個々の発言の食い違いをただすためには一堂に集める形式も検討できないか。還流システムを「長年の慣行」と言うのなら、前身の森派会長を務めた森喜朗元首相からも事情を聴くことが不可欠だ。

 政倫審の焦点の一つは、還流を復活させたとされる22年8月の派閥幹部協議だ。ところが、出席メンバーの塩谷立下村博文西村康稔世耕弘成各氏は意思決定へのかかわりを否定。世耕氏は「誰が決めたのか私自身知りたい」と半ば開き直ったかのように言い放った。

 下村氏は1月31日の記者会見で、還流資金を「個人パーティーに上乗せして収支報告書を合法的に出す案」がこの協議で話し合われたと明らかにしていた。「合法的」と言うならば、それまでの会計処理の「違法性」を認識していたと考えるのが自然ではないか。政倫審でそれを否定するのはにわかに信じ難い。

 また自民党参院議員会長も務めた橋本聖子氏は、自身の派閥パーティー券の販売ノルマを知らないと平然と語った。ろくに調査もせずに、何のために審査を申し出たのか。西田昌司参院議員が政倫審で「派閥の幹部はそのとき知らなくても報告する義務がある」と批判したのも当然だ。

 今回おぼろげながら浮かび上がったのは、還流システムの動機だ。高木毅氏は、自前でパーティーを開けない若手議員らを支援するために始まったのだろうと述べた。つまり派閥パーティーの名を借りてカネを集めさせる手法なら、堂々と収支報告書に記載すればいい。

 自民党では派閥の役割として若手議員の教育・研修機能が挙げられてきたが、これでは違法行為を指南してきたと言われても仕方あるまい。

 野党は資金還流を受けた残る70人余りの政倫審出席も求めている。本来なら一人ずつ弁明させるのが筋とはいえ、物理的に難しければ、質問書を送り、文書で回答してもらう形も検討すべきではないか。少なくとも、自民党の「聞き取り調査に関する報告書」に匿名で記された説明や意見を実名化する必要があろう。それが有権者の判断材料になるからだ。

 自民党が党大会で掲げた「解体的な出直し」の第一歩が、裏金事件の解明である。