強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審=裁判のやり直しが決まるまで40年余りかかるなど、審理の長期化が指摘される中、えん罪被害者の速やかな救済につなげようと、超党派の国会議員による議員連盟が発足し、法改正を含め、再審制度のあり方について検討を始めることになりました。
再審の制度は刑事訴訟法に規定がありますが、70年以上にわたって一度も改正されておらず、通常の刑事裁判とは違って、審理の進め方などが具体的に定められていません。
このため、再審請求の審理が長期化し、えん罪を晴らす妨げになっているとの指摘も出ています。
58年前に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんのケースでは、裁判のやり直しを求めてから去年、再審開始が決まるまでに40年余りかかりました。
こうした中、再審に関する手続きを見直すことで、えん罪被害者の速やかな救済につなげようと、超党派の国会議員による議員連盟が発足することになりました。
与野党の党首クラスが参加する見通しで、3月に設立総会を開き、法改正を含め、再審制度のあり方について検討を始めることにしています。
再審の制度をめぐっては、日弁連=日本弁護士連合会が法改正を求める意見書を公表しているほか、法務省の有識者会議が証拠開示のあり方について議論しています。
袴田巌さんの姉 ひで子さん「大いに期待している」
超党派の国会議員による議員連盟が発足する見通しになったことについて、袴田巌さんの姉のひで子さん(91)は「こういう問題は一足飛びにはいかないが、1歩でも2歩でも前進して動いてもらうことが大事です。議員の皆さんが努力してくださると思うので、大いに期待しています。法改正が実現すれば、事件に関する証拠が出てくるようになり、えん罪で苦しむ皆さんが助かっていくと思う」と述べました。
袴田さんは長期間にわたり、死刑執行への恐怖のもと収容されていた影響で、釈放されてからまもなく10年となる今も、意思の疎通が難しい状態が続いています。
これについて、ひで子さんは「『巌を元の体に戻してほしい』と言ってもしかたがないし、巌だけ助かればいいわけではない。およそ48年もの間、拘置所などに入っていたということを皆さんで検討し、法改正につなげてほしい」と話していました。
再審制度をめぐる現状と課題
19の条文がありますが、通常の刑事裁判のように、進め方や手続きの内容が細かく定められているわけではありません。
審理の進行は裁判官の裁量に委ねられていて、事件によっては、再審をするかどうかを判断する「再審請求審」の段階で長い年月を要します。
死刑が確定したあと、再審で無罪となった人は戦後4人いますが、いずれも申し立てから再審開始が決まるまでに20年以上かかっています。
去年、裁判所の判断が示されたケースでは、袴田巌さんは最初の申し立てから再審開始が確定するまでに42年かかりました。
また、1984年に滋賀県日野町で起きた強盗殺人事件では、最初の申し立てから20年以上たった去年2月に大阪高等裁判所が再審を認めましたが、検察が不服として最高裁判所に特別抗告し、審理が続いています。
この事件で無期懲役が確定した男性は無実を訴え続けていましたが、服役中に75歳で死亡しました。
こうした状況を受け、日弁連=日本弁護士連合会は去年、法改正を求める意見書をまとめました。
手続きが長期化しないよう、通常の裁判と同じように「証拠の開示」に関する具体的な規定を設けることや、裁判所が再審を認めた場合には検察による不服の申し立て「抗告」を禁止すべきだと訴えています。
再審手続きでの証拠開示については、法務省の有識者会議の中でも議論が始まっています。
一方、検察官による抗告が審理の長期化の要因になっているという指摘に対して、小泉法務大臣は去年10月の記者会見で、「抗告権をなくすと違法・不当な再審開始の決定があった場合に是正する余地をなくしてしまうという問題が生じる。司法制度全体のあり方とも関連するので慎重に検討すべきだ」と述べています。