教育実習で“なりたくない” 教員に魅力感じるも ためらう学生(2024年4月27日『NHKニュース』)

各地で教員採用試験の出願が始まっていますが、教職課程を履修した学生への調査で教育実習中に「教員になりたくないと思うようになった」という回答が4割を超えたことがわかりました。

一方で「やりがいを感じた」という回答も8割に上っていて、魅力は感じつつ長時間労働や保護者対応などからためらう学生の姿が浮き彫りになりました。

「教員になりたくないと思うようになった」は42%

調査は名古屋大学大学院の研究チームが国の研究費を活用して去年11月にオンラインで行ったもので、教職課程を履修したことがある全国の大学3年生と4年生、620人から回答を得ました。

この中で、2週間以上の教育実習を経験した347人に実習中のことを聞いたところ
▽「教員としてのやりがいを感じた」は「ややあてはまる」「とてもあてはまる」という回答が81%に上りました。

一方で
▽「教員になりたくないと思うようになった」という回答は42%となりました。

このうちの7割も「やりがいを感じた」と回答していて、現場を経験して教員の仕事に魅力を感じつつ、ためらう学生が多い状況が浮き彫りになりました。

また、回答した620人全員のうち、教員免許の取得をやめたのは149人で、理由で最も多かったのが
▽「自分は教員に向いていない」で76%
▽「ほかに将来就きたい職業が決まった」が71%でしたが
▽「長時間労働だと知った」や
▽「保護者対応に自信がない」という回答も、それぞれ64%に上りました。

内田良 教授「長時間労働が解消されるのか不安に思う学生も」 

研究チームの名古屋大学大学院の内田良 教授は「教員不足が起きているが教職に魅力がないわけでなく、やりがいはあるが職場環境を理由に、子どもと向き合いたいという学生が離脱している深刻な現状が見えてきた。現場の時間管理のなさを見て長時間労働が解消されるのか不安に思う学生も多い。国や自治体は長時間労働や保護者対応など職場環境の改善を進めるのはもちろん、どういう対策を講じようとしているか学生に伝えることが重要だ」と話していました。

現場の実態を知って「心身を崩してまで働けない」 

教育実習中に学校現場の勤務実態を知り、憧れてきた教員の仕事を諦めた人もいます。

この春、民間企業に就職した井上響さん(22)は、中学の頃の恩師に憧れて教員を目指すようになり、大学3年生のときに東海地方の小中学校でそれぞれ1か月間教育実習に参加しました。

現場で実際に子どもたちとやりとりする中で教職の魅力を改めて感じ、週末も時間をかけて指導案の作成に取り組んだといいます。

井上さんは「子どもたちから『すごく授業楽しかった』『おもしろかった』などと、たくさん声をかけてもらえてうれしかったです。こちらも得るものがありますし、子どもたちの成長を感じる瞬間は、ほかにないやりがいだと思います」と話していました。

その一方で、印象に残ったのは昼食をゆっくり取る時間も休憩もほぼなく遅くまで働き、定時を過ぎて来校した保護者への対応にも追われる教員たちの姿でした。

井上さんは「授業中はもちろん、休み時間や給食の時間もずっと子どもたちの様子に目を光らせないとならず、思った以上に気の休まらない仕事だと感じました。家に帰ってからの時間も短く、休日も出勤する人もいるので、プライベートと仕事をなかなか分けられず、自分には厳しいと感じました」と語りました。

周囲からも長時間労働の問題を心配される中、教員を目指すかどうか1か月余り悩んだ末、最終的には教員になることを諦め、民間企業に就職することを決めました。

井上さんは「教育実習でやりがいと魅力を感じたので働き方の問題さえなければ教員になっていたと思います。本質的な部分はすごくいい仕事だと感じているのに、働き方の面で決断できないのはとても悔しかったですが、自分の心身を崩してまでは働けないと感じました」と話していました。

改革の現状 自治体では出前授業などでアピール 

深刻な教員不足に危機感を抱き、教員志望の学生などに働き方改革の現状をアピールしようと、出前授業などに取り組む自治体もあります。

公立学校の正規の教員は主に都道府県が採用していますが大阪 守口市教育委員会は現場の教員不足への危機感から1人でも多くの学生に教員を目指してもらおうと、昨年度から近隣の大学で出前授業を始めています。

20日大阪電気通信大学で行われた出前授業には教職課程を履修し教育実習を控える大学4年生およそ60人が集まりました。

まずは市の担当者が民間企業と比較する形で、市内で働く教員には
▽男女間の賃金格差がないことや
▽育児休暇の取得率が高いこと
それに
▽就職後3年以内の離職率が2.5%にとどまることを説明しました。

課題となっている教員の長時間労働への市独自の対策として
▽部活動は原則平日1時間として負担を軽減していることや
▽これまで5日間だった夏休み中の学校閉庁日を今年度から14日間に延長し、教員も長期休暇をとりやすくしていることなどをアピールしていました。

一般企業と教職で迷っている女子学生は「教員の仕事は過酷で長時間労働が多いイメージがありましたが、今回の話では保護者対応などたくさんの改善が見られ、思ったより働きやすい環境だと思いました」と話していました。

教員の父親がいる男子学生は「父親が帰ってくるのが遅かったので、大変な印象がありましたが、少し労働環境が改善されているのかなと感じました。育児休暇を男性も取れている点も大事だと感じ、きょうの説明でさらに教員になりたいと思いました」と話していました。

守口市教育委員会学校教育課の山口喜孝 課長代理は「今の学生は給与面や休みの取りやすさ、福利厚生にいたるまで現実的なところをみていると感じ取ることができました。やりがいも非常に大事ではあるものの並行して働きやすさも伝えることで、教職を目指す人を1人でも多く増やしていきたいです」と話していました。

 

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