メールやメッセージなどの文末が句点(。)で終わっていると、威圧されたように感じるという「マルハラスメント(マルハラ)」が、若者を中心に広がっている。 大阪大学の三浦麻子教授(社会心理学)と東京大学の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は、2024年3月上旬、18~29歳の男女各150人と、30~60歳の男女各250人にオンラインでアンケートを実施した。
「マルハラがさまざまなメディアで話題になっていましたが、若者がどの程度『マルハラ』を感じているのかがわからず、本当に存在するのか疑問に思ったため、調査をおこないました」(鳥海教授)
この結果を、「朝日新聞デジタル」が3月8日《「。で終わる文章は威圧的」 若い女性の4割「マルハラある」と回答》と題して報じた。
内容は《メッセージアプリで上司とやりとりしている場面を想定し、文末が句点だった場合と感嘆符だった場合で、受ける印象に違いがあるかを聞いた》として、《18~29歳の若い女性では、句点は感嘆符より「威圧的」「冷淡」「怖い」といったネガティブな印象を感じる人が6~7割いた。逆に、感嘆符のほうがネガティブだと思う人は1割にとどまった。若い男性でも、半分ほどが句点をネガティブに感じていた》との調査結果を報じたものだった。
これに鳥海教授は《我々の調査を取り上げてもらって、ありがたい限りなのですが》と前置きしたうえで《若干以上のタイトル詐欺を感じています》とSNSに投稿。《若い女性の4割が「マルハラがある」と答えたわけではない》《「句読点に威圧感を感じることがある,たまにある」と若い女性の4割が回答していますが,男女合わせた18~29歳の7割は「威圧感を感じることがない,ほとんどない」と答えています》と、調査結果の説明を補足した。
鳥海教授に、今回の発信の真意を聞いた。
「『。』で終わる文章に威圧感を覚えることを『マルハラ』と呼ぶ、と定義すれば、4割の若い女性が『たまにある、よくある』と答えているは真になります。ただ、ハラスメントというのはかなり強い表現ですので、句読点に威圧感を覚える以上の意味が『マルハラ』には含まれる、感じ取られるのだと思います。それは新聞社も理解していたと思います。
一方、レポート中では『威圧感を覚える=マルハラ』としているため、『そこを取り出したのだから嘘ではない』ともいえると思います。
読者が正しく理解するかどうかではなくて、興味を引く見出しを出すことを重視しているメディアの姿勢も理解はできますが、最近のメディアの『マルハラ推し』に冷や水をかけるつもりの分析が、かえって助長するタイトルをつけられたあたりは、さすが新聞社の方が一枚、上手でした」
このことについて、朝日新聞社広報部は「鳥海不二夫先生から頂戴した見出しに対するご指導は真摯に受け止めています。見出しは記事の内容を端的に表現し、読者にお伝えするものであり、今回のご指摘を踏まえ、今後に生かして参ります」と、本誌の質問に回答を寄せた。
ちなみに今回の記事の見出し。鳥海教授なら、どんなタイトルをつけるだろうか。 「《若い女性の4割『威圧感を覚えることがある』と回答》ならまだよかったかなと。『マルハラ』を使いたいのであれば、《マルハラの調査、『威圧感を覚える』若者も存在》などでしょうか。そもそも『なんでもハラスメントにするのはどうなのだろうか』という結論を出した、我々の思いをくみ取ってもらえる見出しだとよかったなと思います。『目を引くこと』と『正しい情報を伝えること』を両立させるのは難しいでしょうけど」 センセーショナルなタイトルを付けがちなメディアに、一石を投じる諫言である。