岐阜県・岐南町の第三者調査委員会からセクハラやパワハラ行為を認定され、小島英雄前町長(74)が辞職した問題。ジェンダー平等が浸透しつつあるこの時代に組織のトップが繰り返していた行為に対して、SNS(交流サイト)などでさまざまな意見が飛び交った。岐阜新聞社は3月8日の「国際女性デー」に合わせ、LINE(ライン)でつながる「あなた発!トクダネ取材班」の登録者にアンケートを行い、意見を募った。
前町長への失望の声が集まる一方、世代間ギャップ「ハラスメントはなくせない」といった諦めの声が多く寄せられた。問題だと認識していても、具体的な対処法を打ち出せずにいる現状があるようだ。人と人とのつながりの中で存在しうるハラスメントと、私たちはどう向き合ったらいいのか。
【岐南町セクハラ問題の経緯】
2023年5月に、岐南町小島英雄長が女性職員に対してセクハラを繰り返していたと週刊文春で報じられた。その後、弁護士3人による第三者調査委員会が立ち上がり、その結果が今年2月に公表され、「頭をポンポンした」「背後から抱きつく」「『俺の手はすべすべやで触ってみろ』と自身の手を触らせた」など99の行為が「セクハラ行為(ないし不相当言動)」に認定された。岐南町長が会見を開き、今月、3月5日で辞職した。
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「がっかりした」「恥ずかしい」。アンケートに寄せられた意見に、小島前町長に対する失望の声は多かった。第三者委が認定した「セクハラ行為(ないし不相当言動)」は99項目にもおよんだ。
大垣市の20代女性は「昭和期やバブル期のいわゆる〝おじさん世代〟が若い頃はセクハラが大きな問題にならず、むしろ当然ぐらいの時代だったのかも。だから今なお、セクハラはしても良いことだというのが染み付いているのでは」。前町長は70代。関市の40代男性は「私の父親もそうだったが、『男の言うことに従って当たり前』という考えなのだろう。自分が絶対正しいと思っている男性は今も一定数いると思う」。北方町の40代女性は「(会見で)セクハラ行為を反省して泣いたのでなく自身の兄に叱られたことについて泣いたということが、何よりあの世代のハラスメントに対する認識を物語っていると思う。もちろん全員が誤った認識でいるとは思っていないが…」。世代間の分断をも招きかねない、厳しい意見が集まった。郡上市の60代男性は「不用意に人の体に触れてはいけないことに気づかないと。今も昔も、そんなコミュニケーションはない」と、戸惑いの声は高齢層からも届いた。
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アンケートは登録者3904人に一斉送信し、開封した2510人のうち、140人が回答した。65%が女性。年齢層は40、50代が約6割で、70代以上と10~30代が各約2割。項目には岐南町の問題に対する意見など自由回答のほか、ハラスメントに関する選択式の項目を設けた。
「身近な人がセクハラまたはパワハラに当たる行為を受けていると感じたことはあるか」との問いに「はい」と答えた人は86%だった。男女とも8割を超えており、年齢層別では30代全員が「はい」を選ぶなど、地域社会にハラスメントを身近に捉えている人が、一定数いる実態が浮かび上がった。
また、「あなた自身がハラスメントだと感じることを身近な人からされたことがあるか」との問いには79%が「はい」と回答。女性は87%、男性65%で、年齢層では30、40、50代がいずれも8割を超えた。
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第三者委の報告書では、町長と職員という立場の違いがセクハラの一因になったことが指摘されている。安八郡安八町の50代女性は「やめてほしいと思っていても、職位の高い人には言いづらい」と思慮する。岐阜市の40代男性は「昔の感覚で何気なく発せられた言動がハラスメントだと思うことはあるが、本人にその自覚がないから指摘が難しい」。根絶の困難さを訴える意見は相次ぎ、羽島郡岐南町の40代女性は「逆恨みされそうで下手に注意もできない」と嘆いた。一方、岐阜市の30代女性は文章の語尾に「。」を付けることが威圧に当たるとする「マルハラ」を引き合いに「何でもハラスメントにしてしまうのもどうかと思う」と疑問を投げかけた。
ジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)や男尊女卑の考え方に、かねてから困惑しているという意見も届いた。岐阜市の50代女性は「食事会で女性にだけお酌をさせる上司が、いまだにいる」。同市の40代女性は「上司からの連絡で男性には丁寧なのに、私には名前にちゃん付けで、言葉選びも何だか見下している」。揖斐川町の60代女性は「『お前は女のくせにかわいくない』とか『子育ては女がするもんや』とか、女はこうあるべきだという呪縛に、幼い頃からずっと抑圧され続けてきたと感じている。男性が、女性が、ではなく、互いが相手を認め、信頼し合えたら、今の社会の閉塞感も和らぐのではないでしょうか」
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大垣市の30代女性は「防ぎたい、やめてほしい、という気持ちはある。でも、無くすのは無理でしょ、という諦めもあります」
社会人向けハラスメント講習会などで講師を務める朝日大法学部の大野正博教授(刑法)は「日頃からのコミュニケーションが取れていないことが原因」と受け止める。組織や団体の中で普段から対話を重ねることで、本人の意向や思いをくみ取りやすくなるといい「相手に言いにくいという環境こそ変えていかなければならない」と指摘する。その上で「一方的な研修だけでなく、ハラスメントについて広く意見を交わし、自分で考える機会につなげることも大切」とする。
アンケートには具体的な対策に悩む声も多かったが「ハラスメントを根絶させるという思いは持ち続けてほしい」と強調する。「今回の問題も、岐南町長が辞めたから終わりではなく、組織を変えるきっかけにする必要がある」と訴える。どこに問題があったかを検証し、適切な相談窓口やワークを取り入れた研修、兆候などを見つけるためのアンケート調査を導入することが必要とした。立場や年齢によって個々に認識も違うといい「一人一人が意識を変えていくことが重要。今こそハラスメントや男女平等について考え、誰もが住みやすい世の中を目指してほしい」と語った。
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岐南町の40代女性は「地域社会が見て見ぬふりをしない。ハラスメントがおかしいという空気を、みんなでつくっていく」。アンケートには問題と正面から向き合うメッセージも寄せられた。岐阜市の60代男性は「安心して相談できる環境を整える必要がある」、大垣市の50代男性は「立場や年齢にかかわらず、正しい認識を持つための教育が欠かせない」と提言した。
◆担当記者 山田俊介(やまだ・しゅんすけ)2012年入社。本社報道部で岐阜市政、司法、県警の各担当を経て、23年10月から遊軍担当。「岐阜新聞あなた発!トクダネ取材班(あなトク)」の立ち上げに携わった。社会福祉士を目指して在学中。1児の父。岐阜市出身。
坂井萌香(さかい・もえか)2020年に関西の新聞社に入社後、警察担当と写真部を経験し、23年3月に岐阜新聞社に入社。長野県出身。中学生のときから大好きだった書道を学ぶため、大学時代を岐阜で過ごす。たくさん歩いてたくさん記事を書いて、岐阜の魅力を届けることが目標。