いつまで国会は裁判所のメッセージを無視し続けるのか 同性婚訴訟 判決文を識者と読み解く(2024年3月15日『東京新聞』)

 
 同性婚を認めない現行制度は違憲違憲状態という判断が14日、札幌高裁と東京地裁で、それぞれ示された。札幌高裁はこれまでの同種訴訟判決よりもさらに踏み込み、当事者の思いを代弁した形になった。国会で具体的な法整備の動きが見られない中、司法が背中を強く押した格好だ。 (奥野斐)

◆過去で最も踏み込んだ札幌高裁判決

 「原告の主張に沿った判断で画期的。高裁での明確な違憲判断は重い」。札幌高裁の判決を受け、一連の集団訴訟弁護団の一人、上杉崇子弁護士は喜んだ。
 札幌高裁の判決では、憲法が定める婚姻について「男女が子を産み育てる関係を法的に保護するもの」などとした国の主張を否定。同性間の婚姻も含まれると明言した。これまで違憲違憲状態とした地裁判決と比べて大きく踏み込んだ。

◆「異性婚を前提とする考え方と決別」

 棚村政行・早稲田大教授(家族法)は「異性婚を前提とする考え方と決別、婚姻の自由の保障に同性間も含まれると解釈した意義は極めて大きい」と強調。また、建石真公子(ひろこ)・法政大教授(憲法学)は、高裁判決が個人の尊重をうたう憲法13条に言及し「性的指向が重要な法的利益」として24条違反を導いたことを評価。「意義深く、人権保障を深める方向に進めた判決」と述べた。
 これまでの同種訴訟では同性婚への反対意見への配慮も目立った。2022年11月の東京地裁判決(1次訴訟)では、婚姻は男女のものという伝統的価値観に根差した反対意見について「一方的に排斥することも困難」と指摘している。
 14日の東京地裁判決(2次訴訟)も、世論調査などで同性婚への賛成が増えるなど国民の意識の変容を認めつつも「反対意見を持つ人は少なからずいる」とした。

◆反対意見への「配慮」消え

 しかし、札幌高裁は同性愛に対する違和感、嫌悪感、偏見について「感覚的、感情的な理由にとどまる」と説明。生まれながらの性質に由来し、合理的に区別する理由がないと説くことで解消していく可能性があるとし、反論を封じた。
 19年以降、全国5地裁に提訴された集団訴訟は、7件の地裁・高裁判決で違憲違憲状態が6件まで積み上がった。同性カップルの法的保障を国会に求める司法からのメッセージが立て続けに出されている。

◆「社会を変える」ための議論を進める時

国会議事堂

国会議事堂

 しかし国会の動きは鈍い。昨年2月、岸田文雄首相が同性婚の法制化について「社会が変わってしまう」と衆院予算委員会で答弁。その後、元首相秘書官による「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」との差別発言もあり、批判を浴びた。
 立憲民主党など野党は同性婚を認める民法改正案を提出している。だが伝統的な家族観を重んじる自民党内の声などから、具体的な議論は進んでいない。
 棚村教授は「裁判所は人権を守る最後のとりでとして職責を果たそうとしている。国会は重く受け止め、議論や検討を直ちに進めるべきだ」と強調した。
 

 

同性婚を認めないのは「違憲」「違憲状態」 同じ日に異なる判決…札幌高裁と東京地裁の判断を分けたものは(2024年3月14日『東京新聞』)

 
 同性カップルの結婚を認めない民法などの規定は憲法に違反すると訴えた集団訴訟で、札幌高裁は14日、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定めた憲法24条1項は「同性婚も保障すると理解できる」との初判断を示し、民法や戸籍法の関連規定を違憲とした。同種訴訟の高裁レベルで違憲判断は初めて。この日は東京地裁の2次訴訟判決もあり、憲法24条2項に照らし「違憲状態」とした。計7つの地裁・高裁の判決で「違憲」3件、「違憲状態」3件、「合憲」1件となり、同性カップルの権利を保障する法整備を国会に求める司法の姿勢が鮮明になった。(梅野光春、加藤益丈)

憲法24条1項は「同性婚も保障する趣旨」

 札幌高裁の斎藤清文裁判長は判決理由で、憲法24条1項について、旧憲法下の家制度での婚姻を否定し、当事者の自由意思で婚姻するために「両性」と表現したと指摘。制定当時は同性婚を想定していなくても、現在では性的指向同性婚の自由も十分に尊重すべきだとした。
 
 その上で24条1項を「人と人との婚姻の自由を定めたもので、同性婚も異性婚と同程度に保障する趣旨」と解釈。さらに同性婚を認めた場合に「社会に大きな変化をもたらす」といった反対論については「的確な根拠があるとはうかがえない」と一蹴した。

◆国会の鈍い動き「合理性を欠く」

 また、婚姻できない同性カップルには相続などで著しい不利益があり、海外では同性婚の制度化が相次いでいることにも言及。国内で立法の動きがないことは「憲法24条の規定に照らして合理性を欠き、少なくとも現時点では、国会の裁量の範囲を超えている」とし、違憲と判断した。
 これに加えて斎藤裁判長は、現状を法の下の平等を定めた14条1項にも違反しているとした。異性愛者と同性愛者の違いについて、人の意思で選択・変更できない性的指向の差異だと認定。それなのに同性愛者は、婚姻による法的効果を受けられないため、現行規定について「差別的取り扱いに当たる」と結論づけた。
 
 この訴訟では、北海道の同性カップル3組が国に計600万円の損害賠償を求めて2019年2月に提訴。一審札幌地裁は21年3月、14条1項に違反するとして違憲判決を出していた。損害賠償については一審、二審ともに認めなかった。
 原告は高裁判決の一部を不服として上告する方針。

東京地裁憲法24条2項に違反と判断

 一方で東京地裁は、法律婚と同様の法的利益を受ける法制度がないことは「同性カップルらから人格的利益を剝奪するもの」と認めた。法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に基づき制定することを求めた憲法24条2項に違反する状態と判断した。
 飛沢知行裁判長は判決理由で、異性婚しか認めない現行制度では、同性カップルは▽税や社会保障の優遇措置など法律上の利益▽2人の関係を社会的に公証され、医療機関でパートナーの診察状況を当然に知る利益—など「重要な人格的利益を一切受けられない状況にある」と認定した。
 
東京地裁前で判決への評価などを語る原告ら=東京・霞が関で

東京地裁前で判決への評価などを語る原告ら=東京・霞が関

 国民の意識は変わり、法律婚は男女間に限られるという「伝統的価値観は揺らいでいる」と指摘。同性カップルらのための制度がないのは「性自認性的指向に即した生活を送るという重要な人格的利益を同性カップルらから剝奪するもの」で違憲状態と判断した。

◆「現時点で違憲とまでは言えない」

 しかし、具体的な制度の構築は「国会の立法裁量に委ねられている」とし、現段階で違憲とは言えないと結論付けた。「今後、国会で適切な法制度化がされるよう強く期待される」と国会に対応を求めた。
 原告は東京都在住の同性カップルら8人。国に計800万円の損害賠償を求めて2021年3月に提訴していた。

◆札幌高裁の画期的な判断に沸く

 同性婚訴訟で、札幌高裁が憲法は「同性婚も保障する」と画期的な判断を示したことに、東京2次訴訟の原告と弁護団も喜びを共有した。
 14日午前10時半の東京地裁での判決後、東京の原告らは東京都内で報告集会を開き、札幌高裁の判断を待った。午後3時過ぎに違憲判決の一報を受けると一斉に拍手した。会場のスクリーンには札幌高裁前で喜ぶ原告らの姿が映し出され、集まった人々からも「やった」、「素晴らしい」と歓声が上がっていた。
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東京地裁の判断「旧態依然な国寄り」

 東京訴訟原告の藤井美由紀さん(49)は、東京地裁判決は認めなかった憲法24条1項違反を、札幌高裁判決が認めた点を評価。「東京高裁(の控訴審)でも、このような判決を祈っている」と期待した。
 
東京地裁判決後、記者会見する原告ら

東京地裁判決後、記者会見する原告ら

 原告の河智志乃さん(52)は、東京地裁判決には「国の旧態依然とした姿勢に司法も寄ってしまったようで残念だ」としつつ、札幌の違憲判決は喜んだ。「時間は有限なので、(同性婚を認める)立法を早くしてほしい」
 河智さんのパートナーで原告の鳩貝啓美(ひろみ)さん(58)は、訴訟を通じて他の原告の体験を聞き、婚姻を認められない苦労に共感して悲しんだが、少し強くなれたという。札幌訴訟の当事者たちが喜ぶ映像を見て、「本当にこれ(違憲判決)を待っていたという気持ちがこみあげてきた」と話した。(中山岳)

 違憲違憲状態 これまで計7地高裁で出た同性婚訴訟の判決では、国会の立法裁量を考慮しても、現行規定が憲法にそぐわない場合などを「違憲」と判断。一方、憲法に違反しているものの、国会による検討や対応が期待できる場合などを「違憲状態」としている。国政選挙の「1票の格差」を巡る訴訟では、格差が相当期間続いているのに是正せずに国会の裁量権の限界を超えたと判断されれば「違憲」、国会が対応せずそのまま放置すれば違憲となる格差があれば「違憲状態」と判断される。