同性婚で高裁判決 国民常識と隔たり不当だ(2024年3月16日『産経新聞』-「主張」)


 同性同士の結婚を認めない民法などの規定について札幌高裁は、「婚姻の自由」を定めた憲法24条などに反し違憲だとする判断を示した。

 同性婚を認めるもので、国民の常識と隔たり受け入れられない。社会の根幹を成す伝統的な家族制度を壊しかねない不当な判決である。

 北海道の同性カップル3組が国に計約600万円の損害賠償を求めていた。これを含め全国5地裁で起こされた計6件の同種訴訟で初の控訴審判決だ。

 「違憲」とした札幌高裁判決で、とりわけ首をひねるのは、憲法24条1項について「同性婚も保障している」と踏み込んだことだ。

 「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」としたこの規定は男女、異性間の婚姻について定めているのは明らかだ。同性婚は想定していない。一連の地裁判決もそう解釈し、今回の判決も文言上は異性間の婚姻を定めた規定だと認めている。

 にもかかわらず、規定の目的を考慮する必要があるとし、「人と人の結びつきとしての婚姻」について定めた趣旨があるとしたのは無理がある。憲法の条文をないがしろにする、ご都合主義だと言うほかない。

 判決は、同性愛者に婚姻を許していないのは差別的取り扱いで、法の下の平等を定めた憲法14条1項に反するともした。

 国民世論にも触れ、同性婚に否定的な意見を持つ国民もいるが感情的な理由にとどまっているとも言っている。

 だが決してそうではない。一連の訴訟で国側が主張してきたように婚姻制度は、男女の夫婦が子供を産み育てながら共同生活を送る関係に法的保護を与える目的がある。

 同性愛者など性的少数者への差別解消や権利擁護と、結婚や家族のあり方の議論は分けて考えるべきだ。

 札幌高裁判決に林芳正官房長官が「同性婚制度の導入は国民生活の基本にかかわる問題で、国民一人一人の家族観とも密接にかかわるものだ」と慎重な立場を示したのはもっともだ。

 拙速な議論は社会の分断を招き、かえって差別解消から遠のきかねない。自治体や企業などを含め、同性カップルを巡る法的・経済的不利益について考慮し、きめ細かな施策を進める現実的な議論が必要だ。

 

 同性婚、米民主党政権の価値観に引きずられるな(2024年3月16日『産経新聞』-「産経抄」)

 
米国のエマニュエル駐日大使

 

 「婚姻の自由、そして法の下の平等を実現するために、日本がまた一歩前進しました」。エマニュエル米駐日大使は14日、X(旧ツイッター)で憲法同性婚も保障しているとの札幌高裁の初判断について記した。昨年のLGBT理解増進法審議の際もそうだったが、日本を12歳の少年扱いした占領軍のマッカーサー最高司令官まがいの上から目線が鼻につく。

憲法24条1項は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定める。この部分は、連合国軍総司令部(GHQ)が昭和21年2月13日に日本側に交付した憲法改正案では「男女両性」と明記されており、両性が男女のことであるのは自明だろう。

▼そもそも当時、米国は同性婚はおろか同性愛行為すら法律で禁止していた。そうした前提に立ち改正が難しい硬性憲法を日本に押し付けておいて、今さら一歩前進などとよく言う。同性婚の是非は日本自身が決める。内政干渉は慎んでもらいたい。

自民党小野田紀美参院議員は12日、Xで令和5年の党員数が前年比で約3万4000人減少した問題について指摘した。「LGBT法通した後ですよ、うちで激減したのは」。エマニュエル氏が「われわれの価値観」と述べて日本の政界に熱心に働きかけた同法は、政権に小さくないダメージを残している。

岸田文雄首相は15日の国会で答弁した。「双方の性別が同一である婚姻の成立を認めることは、憲法上想定されていないということが従来の政府見解だ」。エマニュエル氏に代表される米民主党政権の価値観に、これ以上引きずられてはなるまい。

▼11月の米大統領選では、トランプ前大統領率いる共和党復権もあり得る。政府が慌てて宗旨変えする醜態は見たくない。

 

同性婚否定「違憲」 「結婚の自由」立法急げ(2024年3月16日『東京新聞』-「社説」)

 同性婚を認めない民法などの規定は憲法違反だとして、同性カップルらが国に損害賠償を求めた訴訟で、札幌高裁が「婚姻の自由」を定めた憲法24条に反すると断じた。性的指向性自認に即して、不自由なく暮らすことは大事な権利だ。立法を急がねばならない。
 民法や戸籍法の現行規定は同性婚を認めておらず、LGBTQ(性的少数者)の同性カップルなどは社会生活の上で、さまざまな不利益を被っている。
 例えば、法律婚を要件とする所得税配偶者控除は受けられず、パートナーが死亡した場合、法定相続人になれない。医療機関でパートナーの診察状況を知れるとは限らず、子育て中の場合は、共同で親権を持つことができない。
 いずれも、個人の尊厳に関わる重大な不利益であろう。
 このため同性愛者らは、現行規定が「婚姻の自由」を定めた憲法24条、「法の下の平等」を定めた憲法14条などに反すると訴える訴訟を各地で起こした。
 5地裁6件の判決が出たが「合憲」は大阪のみ。札幌と名古屋は「違憲」、東京(1次・2次)と福岡は「違憲状態」とした。
 札幌高裁は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定めた憲法24条1項について「同性婚をも保障するものと解される」と初めての判断を示した。「同性愛者に婚姻を許していないことは合理的根拠を欠き、差別的な取り扱い」とも指摘した。
 「違憲」の高裁判断は画期的でその意味は重い。政府と国会は真摯(しんし)に受け止めるべきである。
 政府はこれまで「現行憲法下で同性婚の制度を認めることは想定されていない」として立法措置を講じてこなかった。自民党内で反対意見が根強いためだが、国による不当な差別にほかならない。
 共同通信世論調査では同性婚を「認める方がよい」との答えが71%に上るなど、国民の間では同性婚への理解が広がっている。
 国際的な潮流でもある。同性婚は30を超える国や地域で広がり、2019年には台湾でも認められた。先進7カ国(G7)で同性カップルの法的保障がないのは日本だけだ。
 性的指向性自認に関わらず「結婚の自由」を認めるべきだ。裁判所もそれを促す。政府の腰が重いのなら、立法府主導で法整備を進めることが国民代表の責任だ。

 

同性婚訴訟/違憲是正へ法整備を急げ(2024年3月16日『神戸新聞』-「社説」)

 同性同士の結婚を認めない民法と戸籍法の規定が憲法違反かどうかが争われている訴訟の最初の控訴審で、札幌高裁はほぼ全面的に「違憲」とする判決を下した。

 特筆すべきは、「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項は、異性間だけでなく、同性間も同様に保障していると踏み込んだ点だ。各地で6件起こされた訴訟で初の判断となる。

 個人の尊厳を重視し、多様な価値観を認め合おうとする社会の変化を捉え、性的少数者らを苦しめている法解釈の「壁」を取り除こうとした画期的な判断と言える。

 これまでに地裁判決が出そろい、違憲が2件、違憲状態が3件で、合憲は1件にとどまる。ただどの判決も24条1項については、憲法制定時に同性婚が想定されておらず、「両性」の合意に基づくとの文言があることなどから異性間の婚姻を定めているとの見解を出なかった。

 これに対し、高裁判決は「文言のみにとらわれる理由はない」とし、「人と人との自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含む」と解釈した。同性婚の導入による不利益や弊害はないとも明言した。

 司法が結婚を望む同性カップルの救済に道を開いた意義は大きい。政府と国会は重く受け止め、早急に法制化の議論を進めるべきだ。

 既に400近い自治体が導入している「パートナーシップ制度」の限界に言及した点も注目される。

 同制度は居住地の自治体が同性カップルを公的に認める仕組みだが、法的拘束力はない。異性間の法律婚なら認められる配偶者控除や扶養控除、配偶者の死亡による遺産相続や年金の優遇などは認められないため、判決は「同性カップルが受ける社会生活上の不利益は甚大で、同制度では解消されない」と指摘した。

 世論調査同性婚を容認する割合は半数を超え、海外では30を超える国・地域が同性婚を認めている。裁判長は異例の付言で、国民の間に反対意見があることも認めた上で「社会の変化を受け止めることが重要だ。対策を急ぐ必要がある」と述べた。異性婚と同じ制度を早急に適用するよう迫るメッセージである。

 ところが政治の動きはなお鈍い。林芳正官房長官は高裁の違憲判決を受け「他の裁判所の判断も注視したい」などと述べ、具体的に対応する姿勢を示さなかった。

 一審の札幌地裁が最初に違憲判決を出してから3年がたった。最高裁の統一判断には、さらに年月がかかる。このまま放置すれば政治への失望は高まるばかりだろう。

 政府と国会は判決の確定を待たず同性婚の実現に向けた議論を始め、政治の責任を果たさねばならない。

 

同性婚否定二審も「違憲」 国は速やかに法整備を(2024年3月16日『沖縄タイムス』-「社説」)

 司法には、憲法が保障する権利と自由を守る役目がある。その責任を示す意義ある判決だ。

 札幌高裁は同性婚を認めない民法と戸籍法の規定について「憲法違反」と断じた。

 「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と婚姻の自由を定めた憲法24条1項が、異性間だけでなく同性間の婚姻も同様に保障していると初めて示した点で画期的といえる。

 これまでの地裁判決では、憲法制定時に同性婚が想定されていなかったことや「両性」「夫婦」との文言から、同性婚を認めない現状が24条1項に違反するとはいえないとの判断が続いていた。

 これに対し、札幌高裁は「人と人との自由な結びつきとしての婚姻を定める趣旨を含む」と解釈し、同性間の婚姻も認められると踏み込んだのだ。法制度から除外されることで同性愛者が受ける社会生活上の不利益は甚大とした。

 個人の尊厳や両性の本質的平等に基づく家族関係の立法を定めた24条2項、法の下の平等を定めた14条1項にも違反すると指摘した。

 パートナーと一緒に生きていきたいとの気持ちは、同性カップルでも異性カップルでも変わらない。原告の一人は「この国で家族としてふうふとして生きていって良いんだと、前向きな励まされる判決だった」と喜んだ。

 普段の暮らしの中で生きづらさを抱える切実な声に、政府と国会はしっかりと耳を傾け、判決を重く受け止めてもらいたい。

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 昨年5月の共同通信社世論調査では、同性婚を「認める方がよい」との回答が7割を占めた。国内の400近い自治体で「パートナーシップ制度」の導入も進んでいる。

 性の多様性を尊重する社会の動きが、司法を後押ししているともいえる。

 トランスジェンダー経済産業省職員が省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた裁判で、最高裁は昨年7月、国の対応を違法とする判決を言い渡した。

 また、トランスジェンダーの人の性別変更を認める要件として、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする性同一性障害特例法の規定について、最高裁大法廷は昨年10月、「違憲」と断じた。

 多様な家族観を認める意識や性的マイノリティーへの権利制約は許さないとする流れの中で、依然として足踏みを続けているのが政治である。

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 世界では40に迫る国・地域が同性婚を認めているが、日本の動きは鈍い。日本は先進7カ国(G7)で唯一、同性婚やパートナーシップ制度を国レベルで導入していない。

 高裁判決を受け、岸田文雄首相は他の裁判所で同種訴訟が継続しているとし、「引き続き判断を注視したい」と述べただけだった。

 今回の判決で何より重んじられたのは「個人の尊厳」だ。性的指向を理由に不利益を受けることは「個人の存在の否定」にもつながる。

 政府、国会は法整備を早急に進め、政治の責任を果たすべきだ。

 

(2024年3月16日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

 やさしい時が流れるドラマでした。人が人を思いやり、次第に相手を好きになっていく。つきあいはじめ一緒にくらすことになる喜び。同時にその幸せが、社会の壁に阻まれる姿も

▼NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」は料理をきっかけに交際するようになった女性どうしと、自身の性的指向にむきあう過程を丁寧に描き、共感をよびました。一方で同性カップルというだけで家探しにも苦労する現実も映しました

▼「両性というのは男女間での婚姻を表すものだといわれ、社会の中でいないような者にされていることを実感させられてきた」。10年前から同性パートナーとくらし、結婚が認められないのは憲法違反だとして国を訴えてきた女性はいいます

▼結婚の自由をすべての人に―。長く闘ってきた人たちに笑顔がひろがりました。憲法24条1項の両性とは男女のみならず人と人との自由な結びつきであるとして、同性婚を認めない現行制度は違憲だと札幌高裁が判断しました

▼「同性カップルにも当然の権利が与えられ、この国で家族として、ふうふとして生きていって良いんだといってくれる、ほんとうに前向きな励まされる判決でした」。先の原告女性はうれし涙を流しました

▼選択的夫婦別姓とともに大多数の国民が賛同している同性婚。それは人権が保障される社会につながります。性的少数者の人権を守る法整備をもとめる松岡宗嗣さんは「変わらないのは政治だけ」と。突きつける先はかたくなに認めない自民党政権です。