生活保護の申請 増加は社会のひずみ映す(2024年3月12日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 生活保護の2023年の申請件数が、最多となった。4年連続で増えている。

 25万5千件余に上り前年から7・6%の増だ。県内の伸びはさらに大きく、前年から15・3%増の1700件超となった。

 生活保護は、憲法が定めた「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を保障する制度だ。世帯の収入が国の基準に満たない場合、不足分が支給される。

 困窮した人の最後のセーフティーネットでもある。その申請が増え続けているのは、社会に深刻なひずみがある証左だ。課題を洗い出さなくてはならない。

 23年12月時点の受給は165万3700世帯余。半数超が高齢者世帯で、その9割以上を独居が占める。単身高齢者の貧困は主要な課題の一つだ。とともに若い世代の貧困も見過ごせない。現役世代を含む「その他世帯」が、全体の16%を占めている。

 申請件数は19年までは減る傾向にあったが、新型コロナウイルスの流行を機に増加に転じた。

 問題は、流行が落ち着いた後も増加に歯止めがかからない点だ。コロナ禍で生活苦に陥った人たちが、抜け出せないまま物価高でさらに打撃を受けている。

 コロナ禍に打ち出された低所得世帯への公的支援の縮小も、一因とされる。ただしそれ以前に、国などの各種支援策は生活再建に資するものだったのか。詳しく検証する必要がある。

 例えば、コロナ禍で収入が減った人に、社会福祉協議会を窓口に生活資金を公費から特例で貸し付ける国の制度。20年春に始まり、厚生労働省はスピード重視で相談支援の省略などを容認した。

 22年秋に終了したが、全国で約382万件、総額1兆4千億円余と空前の規模となった。

 一方で、返済の見通しが立たず、免除申請が22年秋の段階で件数全体の35%を占めた。

 返済の見込みが立たない人に、ただ貸し付けるだけでは生活再建が遠のく―。現場では当初から制度の有効性を疑問視する声が上がっていた。その場しのぎの支援策が、生活困窮者をいっそう苦境に追いやったのではないか。

 自治体とNPOなどが連携して伴走型の相談支援を強化したい。貧困に陥るにはさまざまな要因が重なり合う。個々の生活実態を丹念に聴き取り、長い目で粘り強く支えていく態勢が欠かせない。

 相談員や生活保護ケースワーカーが十分に活動できるよう、国の手厚い支援が要る。