富士山入山規制 遺産も命も守るために(2024年4月29日『東京新聞』-「社説」)

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 今夏から富士山=写真、本社ヘリ「わかづる」から=で入山規制の取り組みが始まる。山梨県は登山者の6割を占める同県側の登山道を利用する人に1人2千円の通行料を義務付ける。一方、静岡県はウェブでの事前登録制を試行する。オーバーツーリズム(観光公害)に対応しつつ、日本を代表する霊峰と登山者の安全をともに守る仕組みを確立したい。
 昨季の登山者は約22万1千人と、コロナ禍前の水準に回復した。世界遺産とあって外国人観光客も多い。ただ、週末などは山頂で御来光を見ようと払暁の登山道が渋滞し、遺産として認められた要素の一つ、「神聖さ」を損ねているとの指摘もある。
 また、山小屋に宿泊せず夜通し山頂を目指す「弾丸登山」も後を絶たない。体調を崩したり、けがをしたりする人も多く、昨季の静岡側の遭難者は死亡2人を含む70人に上った。改めて3700メートル超の国内最高峰への登山だ、という認識を入山者に徹底させたい。
 こうした混雑や弾丸登山を防ごうと、山梨県は3月、入山規制の条例を制定した。通行料と従来の任意の保全協力金千円を合わせると1人当たりの負担は3千円に。1日の登山者数も4千人を上限とし、5合目の県有地にゲートを設け、夕方から未明まで山小屋宿泊者以外は通行できなくする。
 7月1日に山開きを予定する今季の通行料収入は3億円と見込む。噴火対策のシェルター整備など安全対策にあてるという。観光客が減るリスクもある中、将来を見据えた決断と言えよう。
 一方、同10日が開山予定の静岡県は登山道が国有地で山梨のような規制ができず、弾丸登山者が流れてくる恐れも。その対策の意味もあり、宿泊予約の有無などをウェブで登録するシステムを整備する。登録は任意だが、電子チケットを登山道入り口で提示してもらい、宿泊予約を確認できない場合は夜間登山の自粛を呼び掛ける。
 両県で対応が異なるため混乱も予想され、事前の丁寧な周知が必要だ。国や両県などでつくる協議会で法規制の研究も始まるが、地元理解を前提に、いずれは一体的管理が必要になるのではないか。