『怒りの葡萄(ぶどう)』などのノーベル賞作家、ジョン・スタ…(2024年4月29日『東京新聞』-「筆洗」)

 『怒りの葡萄(ぶどう)』などのノーベル賞作家、ジョン・スタインベックは犬を愛した作家だが、犬に泣かされたこともある
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▼1936年のこと。当時飼っていたセッターの幼犬トビーを一晩、家の中でひとりきりにして外出したらしい。帰宅後、発見したのは大量の紙吹雪。執筆中だった『二十日鼠(はつかねずみ)と人間』の初稿をトビーが食べ、破いてしまった。コピーはなく、2カ月がかりの仕事が台無しになっては大作家も頭を抱えたか
 
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▼犬を飼った人ならよくご存じだろう。紙を破くなんぞ朝飯前。何が楽しいのか、メガネを壊し、ストッキングをほおばり、椅子の脚を傷だらけにする。思わぬことの連続である。犬や猫の行動が原因となる火災も毎年、発生しているそうだ
製品評価技術基盤機構(NITE)によると勝手にガスこんろの操作ボタンに触れて発火するケースが報告されている。電気製品の上にオシッコをかけてしまい、ショートさせ発火ということもあるそうだ。油断ならない
▼「わが友なる子犬は(初稿が不満で)批評精神から食べたのかもしれぬ」。スタインベックはトビーを少し叱った後で許し、原稿を書き直したそうだが、火災となれば大目に見るわけにもいくまい
▼人間の方でよく見張るしかなかろう。ペットが火を出す危険はないか、家の中を再点検したい。何も分からない彼らを火災の「下手人」にしたくはない。