米駆逐艦石垣港寄港に関する社説・コラム(2024年3月12日)

駆逐艦石垣港寄港 軍事力より交流で平和を(2024年3月12日『琉球新報』-「社説」

 

 軍事化、戦争準備がまた一段階、進められてしまった。米海軍ミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」が、沖縄県の自粛要請を無視して石垣港沖合に停泊する形で寄港した。軍艦寄港で民間の活動が脅かされ、周辺地域の緊張が高まる。港が標的になる危険もはらむ。軍事力の誇示ではなく、豊かな自然・文化を生かして経済発展を図り、経済と文化の交流で平和を実現すべきである。民間港湾・空港は軍事化すべきではない。

 長さ155メートル、排水量約9648トンの同艦は、クルーズ船バースへの接岸を求めたが、喫水が安全基準を超えているとして不可となった。そこで、沖合に停泊し、民間船に乗り換えて上陸した。何としても寄港実績を作りたかったのであろう。
 石垣港で働く全日本港湾労働組合(全港湾)沖縄地方本部の組合員約50人がストライキに入った。同地方本部の山口順市執行委員長は「職場の安全、労働者自身の安全を守る必要がある」と主張していた。昨年9月の米掃海艦「パイオニア」入港では、自宅待機を検討したが見送っていた。今回はミサイルを装備した大型艦であるため、より強い姿勢に出た。港で働く労働者が軍艦寄港に不安を抱くのは当然である。抗議のためにストライキ権を行使することは理解できる。
 今回の寄港の直前、石垣市議会で野党市議8人が寄港反対の決議案を提出したが、反対13人で否決された。反対討論では「平素から日米両国の交流を含め、市民の理解促進の場として米軍の船が寄港することは日米同盟に資することで、世界平和につながる」など、寄港を歓迎する主張がなされた。地元民意は分断しており、反対は少数派だ。
 政府は、安全保障上必要性が高い空港や港湾など民間インフラ施設を特定利用空港・港湾(特定重要拠点)に指定し整備を進めようとしている。石垣市宮古島市など5市町の首長らが、同制度に基づく予算獲得を県に要請した。駆逐艦が接岸できなかったことで、整備への流れが加速するかもしれない。
 石垣市内の二つの市民団体が寄港反対を訴える声明を発表した。その中で、1999年に石垣市議会で可決された「石垣市平和港湾宣言」に触れた。今回の市議会の反対決議案でも触れていた。同宣言は「平和で豊かな自然文化都市を目指す石垣市は、今後とも石垣港が、貿易・物流の発展に寄与し、平和と繁栄をもたらす利用の促進が図られるよう宣言する」とうたった。
 1984年に全会一致で議決された「石垣市非核平和都市宣言」を発展させるものとして当時の大浜長照市長が提案した。全国的にも珍しい「平和港湾宣言」だったが、市議会では過半数ぎりぎりの薄氷の可決だった。平和港湾宣言の理想を捨て去っていいのか、改めて議論すべき時ではないだろうか。

 

駆逐艦、石垣入港 混乱と不安招く強行だ(2024年3月12日『沖縄タイムス』-「社説」)

 住民が反対し、県が自粛を求め、港湾労働者が抗議のストライキを決行する中での入港だ。何が何でも強行する理由がどこにあるのか。 米海軍のミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」が11日午前9時ごろ、石垣港に入港した。

 県内の民間港に駆逐艦が入港するのは初めて。全長約155メートル、排水量約9500トンの巨大な艦船で、その大きさから石垣市は当初「入港不可」と判断していた。

 それに対し米側は、駆逐艦を沖合に停泊させて乗組員はボートで上陸する計画に変更したのである。数日前には港の周辺に、関係者以外の立ち入りを制限するフェンス設置を市に要請する念の入れようだ。

 そうした寄港の目的は「乗組員の休息と補給」という。ただ、スティーブン・D・ザクタJr.艦長は入港後「この時期に石垣へ来た理由は特にない」と述べており、必然性は見当たらない。

 駆逐艦の入港は安全を脅かすとして全港湾沖縄地方本部八重山部会の組合員約50人は全面ストに入った。米軍の民間港利用に対してのストは極めて異例のことだ。

 入港した駆逐艦は、敵地攻撃が可能な巡航ミサイル「トマホーク」などを搭載できる。昨年9月、14年ぶりに入港した掃海艦とは規模も機能も大幅に異なり、「港湾労働者を危険にさらすことはできない」との懸念は当然だ。

 ストは駆逐艦の出港予定の13日まで続けられる見通しで物流への影響は避けられない。米軍は、入港が地元の混乱を広げていることの責任を自覚すべきだ。

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 米艦船の強行はこれまでも繰り返されてきた。

 2009年には当時の港湾管理者である市長が反対する中、復帰後初めての入港が強行された。当時も今も米側が根拠にするのは日米地位協定だ。

 陸上自衛隊石垣駐屯地の開設以降、石垣市では有事を想定した配備や訓練が相次いでおり、そうした動きに合わせこうした米艦船入港のペースも上がっている。

 政府は「特定利用空港・港湾」施策で、自衛隊などの艦船が平時から民間港を円滑に利用できることを狙う。八重山では石垣港を含め5カ所が候補に挙がっている。

 政府は米軍も利用できるとの見解を示しており、今回の入港はその地ならしとしての「政治的行動」ではないか。

 米軍は強行した理由を説明すべきだ。

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 公共インフラの軍事利用に住民からは不安の声が上がっている。

 波照間空港を有する波照間島の住民アンケートでは6割が軍民共用化を条件とする滑走路延長に反対した。

 石垣市など5市町の首長が玉城デニー知事に政府の「特定利用」施策に同意するよう要請していることに対し撤回を求める動きもある。

 空港や港湾は離島の人々にとって重要な生活インフラだ。特に国境を接する地域では、周辺の緊張を高める恐れもある。住民を不安に陥れるような利用はすべきでない。