自然災害と原発 課題やリスクの直視を(2024年3月12日『秋田魁新報』-「社説」)

 東日本大震災発生から13年を迎え、昨日は被災地をはじめ全国各地で追悼行事が行われた。震災は大地震と巨大津波、そして東京電力福島第1原発事故という人類が経験したことのない複合災害だった。犠牲者を悼むとともに、あらゆる災害に備えることの大切さを改めて心に刻む日となったに違いない。

 元日の能登半島地震津波を伴う大地震だった。原発事故という深刻な事態こそ避けられたが、外部電源停止、避難ルート寸断などが生じた。浮き彫りになった原発立地地域に特有の課題を忘れてはならない。

 北陸電力志賀原発は半島の付け根に位置し、1、2号機はトラブルや検査で2011年3月以降、停止している。今回の地震震度5強を観測、敷地近くに約3メートルの津波が到達した。

 使用済み核燃料の冷却は継続され、基本的な安全機能は維持できた。しかし変圧器破損で外部電源の一部が使えず、複数の放射線監視装置が使用できなくなるなどトラブルが多発。原発内で観測された揺れ(加速度)は、設計上の想定を一部上回ったという。

 能登半島を縦断する主要道が土砂崩れなどで寸断され、孤立した集落が多数あった。原発30キロ圏内にある放射線防護施設は一部が損傷などのため使えなかった。家屋倒壊で屋内退避もできない被災者にとって最後のとりでとなる施設が機能を果たせなかった事実は重い。

 さまざまな課題が浮上した被災地を1月中旬に視察した岸田文雄首相は「再稼働を進める方針は全く変わらない」と述べている。さらに施政方針演説では「原子力発電は安全最優先で引き続き活用を進める」とした。

 岸田政権は昨年2月、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。脱炭素と電力の安定供給を掲げ、原発の早期再稼働や60年を超す運転の容認、次世代型の開発などを打ち出している。原発依存度を低下させるという福島第1原発事故以来の方針からかじを切った。

 石油や石炭など化石燃料への依存はもはや許されない。温室効果ガス増加は気象災害頻発を招く。脱炭素は時代の要請だ。

 しかし長期固定の「ベースロード電源」としてフル稼働する原発が増え、火力発電の出力を抑制しても電気が余れば、太陽光や風力など再生可能エネルギーの出力が抑制される。結果的に再エネ事業の拡大が頭打ちになりかねない。

 能登半島地震では想定外の揺れ、隆起現象も起きている。放射性物質が放出されていれば、被災者の多くは身を守るすべがなかった。想定の枠を超えてリスクを直視する必要がある。

 原子力規制委員会は避難計画の基準となる「原子力災害対策指針」見直しに着手した。再稼働ありきではなく、能登半島地震で明らかになった課題をしっかりくみ取ってもらいたい。