LGBTQ

愛知県に住む男性が、同性のパートナーと同じ名字への変更を求めた申し立てについて、名古屋家庭裁判所がことし3月、「2人は夫婦と同様の、婚姻に準じる関係だ」などとして変更を認めていたことがわかりました。

代理人の弁護士によりますと、同性カップルについて夫婦と同様の関係だとして名字の変更を認めた決定は異例だということです。

「どういう関係ですか」と聞かれ…

申し立てを行った、鷹見彰一さん(仮名)は、6年前からパートナーの大野利政さん(仮名)と愛知県内で一緒に暮らし、現在は2人で里子を育てています。

2人は、法的な婚姻関係が認められない中でも、結婚と同様の関係となることをお互いに約束する公正証書を作るなどしています。

しかし、2人の名字が違うため、里子を育てる中で、事情を知らない周囲の人から不審に思われ、性的指向のカミングアウトを強いられるのではないかといった不安や、医療機関を受診した際に家族として認められず、面会ができなかったり、治療方針を決めることができなかったりするかもしれないという恐怖感が常にあったといいます。

鷹見さん
「私が夜に救急で病院に運ばれたとき、名字が違うので同行していたパートナーが『どういう関係ですか』と聞かれたことがありました。パートナーは周囲にカミングアウトしていないため、そうした場面で説明するのはすごく勇気がいると思いますし、つらいと思います」

鷹見さんは「パートナーと名字が違うことで生活に多くの支障が生じている」などとして、パートナーと同じ名字への変更を求めていました。

これについて、名古屋家庭裁判所がことし3月、変更を認める決定をしていたことがわかりました。

鷹見さんは先月役所で手続きをして、パートナーの名字に変更したということです。

家庭裁判所の判断は

決定で、名古屋家庭裁判所の鈴木幸男裁判長は次のように指摘しました。

「2人は子育てを中心とした安定した生活を継続していて、婚姻し育児をしている異性どうしの夫婦と実質的に変わらない生活実態にあると認められ、夫婦と同様の、婚姻に準じる関係にあると言える」

その上で、2人の名字が違うことで、里子などが医療機関を受診する際に、親族関係にあると思ってもらえず、場合によっては医療手続きに関与させてもらえなかったり、里子を育てる中で、事情を知らない保育園の職員などに性的指向を明らかにすることが必要になったりする可能性があり「社会生活上の著しい支障が生じている」と認めました。

そして「2人のような、性的指向が少数派に属する者は日常生活のさまざまな場面で差別感情や偏見に基づく不利益な取り扱いを受ける可能性があり、意に沿わないカミングアウトをしなければならない状況が生じることは、それ自体、社会生活上の著しい支障になるといえる」として、名字を変更する「やむを得ない事由」があると判断しました。

代理人の弁護士は「同性パートナーの名字への変更を認めた決定は数少ないとみられる」とした上で、「『夫婦と同様の関係』ということなどを理由として名字の変更を許可したのは異例と言える。これまで同じような状況でも認められなかったり、最初から諦めたりしていた人もいると思うので、勇気をもって申し立ててほしい」と話しています。

「家族に一歩、近づいた」

大野さんは、今回、名字の変更が認められたことについて「まだ法的には家族になっていないものの、病院などでの緊急時に関係性などを疑問に思われ、余計な時間を使うという場面は減ると思います。不安は無くなりませんが、これまでの深刻な状態からは脱せたと思います」と話しました。

2人は同性どうしの結婚を認めていない民法などの規定は憲法に違反すると主張して、国に賠償を求める訴えも起こしていて、裁判が続いています。

鷹見さん
「異性の夫婦と同様だと認めた上で、日常生活の中での支障だけでなく、『不必要なカミングアウトをしなければならない』という脅威についても家庭裁判所に指摘してもらえて涙が出るほどうれしかったです。結婚はできていませんが、家族に一歩、近づいたと感じ、うれしいという言葉だけでは言い表せません。私たちを見て、家族を持つことをあきらめない選択肢もまだあるのだと思ってもらいたいです」

パートナーシップ制度 全国450超の自治体で

同性カップルをめぐっては社会の認識や権利を尊重する動きが広がりつつあります。

2015年には同性カップルを“結婚に相当する関係”とみなして証明書などを交付する「パートナーシップ制度」が東京・渋谷区と世田谷区で初めて導入されました。

同性婚の実現に取り組む団体、「マリッジ フォー オールジャパン」のまとめによりますと、同様の制度はこれまでに全国の450を超える自治体で導入されているということです。

また、同性カップルに配慮したサービスを提供したり、同性パートナーがいる社員を支援したりする企業も年々、増えています。

  • 注目

同性婚をめぐる司法判断も

一方、結婚が法的に認められていない中、生活や制度の面ではさまざまな問題があるとして、当事者たちが裁判などを起こす動きも相次いでいて、最近では同性カップルの権利を尊重する司法判断も出ています。

同性婚をめぐって各地で起こされている集団訴訟では、同性どうしの結婚が法律上認められていないのは憲法違反とする判決が複数出されています。

ことし3月には札幌高等裁判所が2審では初めてとなる判決で憲法違反の判断を示し、「同性間の婚姻についても異性間の場合と同じ程度に保障していると考えるのが相当だ」と指摘しました。

また、犯罪被害者の遺族に支払われる国の給付金をめぐる裁判でも最高裁判所がことし3月、「同性のパートナーも対象になりうる」という初めての判断を示しています。

「決定は画期的」

家族法の専門家で、性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は、同性どうしのカップルについては各自治体の「パートナーシップ制度」など、一定の保護を受けることができる制度の運用が進んでいますが、こうした制度の効果は自治体や組織の中で認められた範囲に限られていて、当事者にとって不安や不利益はなくならないと指摘しています。

その上で、今回の判断について「認められている枠組みの中で、運用で理解や保護を広げていくというやり方を一歩一歩、積み重ねていくことがマイノリティーの人たちの権利擁護や法的地位の確立には必要で、この点を重視した今回の決定は画期的だ」と評価しました。

そして「近年の社会情勢を踏まえて、マイノリティーに対する理解を示している司法の大きな流れを表したものだ。こうした形で認められたことがほかの裁判所や裁判官にも影響を与えうるし、同様の申し立てをする人も増えてくると思う」と話しています。