派閥から還流されたカネの支出先にたびたび登場する老舗洋菓子店の高級クッキーを、地元支援者に贈っていた。世耕氏は「会食費の一部負担」と違法性を否定するが、法律で禁じる有権者への寄付に当たらないのか。
◆上脇氏「疑惑さらに深まった」
「疑惑は、さらに深まった」
「クッキーを贈ったが、会食費の一部負担だから寄付には当たらない」という世耕氏の主張に、上脇氏は開口一番こう訴えた。
上脇氏が指摘する疑惑とは、世耕氏が高級クッキーを地元の有権者に贈っていたという問題だ。
この有権者の男性は、自身のブログで、2023年11月ごろに都内で世耕氏と会食。世耕氏と別れた後、銀座のクラブで「世耕さんからもらったクッキー缶」を振る舞い「ホステスのみんなからは今まで聞いたことのないような歓声」を受けたとつづり、「クッキー缶のおかげで今夜はヒーロー。世耕先生、ありがとう」と感謝していた。
◆「一見さんお断り」の贈答品、毎月購入
この老舗洋菓子店は、一見さんお断りの会員制で「今予約しても提供できるのは1年先」(店の担当者)という。この有権者に贈ったクッキーは、店の看板商品。それほど入手困難の人気店から、世耕氏の政治団体は2022年、毎月欠かさず商品を購入していた。
世耕氏の場合、派閥からの還流分は、2018年からの5年間で総額1542万円。裏金事件を受け、訂正した世耕氏の資金管理団体「紀成会」の収支報告書によると、還流分の主な使い道は「贈答品代」だった。
このうち、この老舗洋菓子店には、2021年と2022年で総額37万8000円分を支出していた。
◆裏金から出費?「答えられない」
世耕氏の事務所が、収支報告書訂正に当たって2月末に発表したコメントによると、派閥から還流された資金の一部は2023年にも繰り越されており、23年も還流分から贈答品代として150万円程度の支出を見込んでいるという。
2021年や22年の状況から考えると、23年に地元有権者に贈った高級クッキーも還流分から支払った可能性もある。世耕氏の事務所に尋ねたが、「担当者が不在で答えられない」とのことだった。
世耕氏の事務所は、2021、22年に老舗洋菓子店から購入した分についても、誰に贈ったかは本紙の取材に「お答えしない」としている。
世耕氏は3月8日、報道陣にクッキーを渡したことを認めたものの、「こちら側から応分の(会食)費用負担をお願いしたが固辞された。せめて一部の負担をという思いで(クッキー)をお渡しした」とし、公職選挙法違反には当たらないと主張している。
◆上脇教授「寄付し合っているだけ」
世耕氏の説明に、まず上脇氏が抱いた疑問は「なぜ現金で割り勘しなかったのか」という点だった。
神戸学院大の上脇博之教授
「世耕氏が、会食費用の一部を現金で支払ったのならまだ分かる部分もあるが、なぜ、わざわざ現金で割り勘せずにクッキーで立て替えるのか。クッキーを会食費用の代わりにする意味が分からない」といぶかる。
「会食代をおごってもらった代わりにクッキーを贈っただけで、それは互いに寄付をし合っているに過ぎない」とも。
◆「他の有権者にも配っていないか」
その上で「世耕氏は自らクッキーを渡したことで、寄付を認めている。和歌山の有権者に渡しているということならば外形的には明らかに公選法違反だ」とし、「自ら待ち合わせして直接会っており、秘書の責任にもできない。今後、刑事責任を問われる可能性も出てくるのではないか」と指摘する。
◆過去には線香、うちわ配って大臣辞任
政治とカネを巡る問題は後を絶たない。
2014年には当時法相だった松島みどり氏が自身の選挙区内の祭りで名前が入った「うちわ」を配布した問題で辞任している。