安倍派5人衆の世耕弘成氏、「裏金」を高級クッキー店でたびたび支出…食べたのは誰? 「一見さんお断り」で入手困難(2024年3月9日『東京新聞』)

 
自民党安倍派の実力者「5人衆」の一人で、前参院幹事長の世耕弘成(ひろしげ)氏の政治団体は、派閥からキックバック(還流)されたパーティー券収入から頻繁に「贈答品」を購入していた。
中でも目を引くのが購入先だ。訂正した収支報告書には、一見さんお断りの老舗洋菓子店の名前がずらり。
この店の看板商品という高級クッキーを巡っては、世耕氏に新たな疑惑も持ち上がっている。(加藤豊大、佐藤裕介)
 

◆裏金から「贈答品代」毎月出費

自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、世耕氏の場合、収支報告書に不記載だった還流分は、2018年からの5年間で総額1542万円に上った。
2月末に訂正した世耕氏の資金管理団体「紀成会」の2021~22年分の収支報告書には、還流分の使い道として「贈答品代」の記載が追記されていた。
贈答品の購入先として頻繁に登場していたのが、創業150年になる東京都内の老舗洋菓子店だ。
2021年は6件で計12万6000円。2022年になると、毎月欠かすことなく月1回の頻度で購入しており、総額は25万2000円に上っていた。
いったい、どんな人に老舗洋菓子店の商品を贈っていたのだろうか。
世耕氏の事務所に問い合わせたが、「お答えしない」という。
世耕氏は、裏金事件を受けた1月の記者会見で、「現状把握できている支出はすべて政治活動費で、不正な目的や私的な目的でなされた支出は一切確認されていない」と説明していた。
 
裏金事件を受け、訂正した世耕氏の資金管理団体「紀成会」の収支報告書。「贈答品代」として老舗洋菓子店に毎月支出した記載がある

裏金事件を受け、訂正した世耕氏の資金管理団体「紀成会」の収支報告書。「贈答品代」として老舗洋菓子店に毎月支出した記載がある

◆注文しても手に入るのは1年先

世耕氏が、派閥から還流された金で購入していた老舗洋菓子店は、ただの店ではない。
SNS上で「1年先からしか予約が取れない」「一見さんお断りの超高級クッキー」などと取り上げられている人気店だ。
店に取材すると、創業は1874(明治7)年。明治政府が建てた迎賓館「鹿鳴館」の舞踏会にも、店のお菓子が提供されたという。
看板商品のクッキー缶は、サイズに応じて8000~3万4000円。店の担当者は「今注文を受けても、提供できるのは1年先」と話す。
注文するにも会員の紹介が必要だ。ただ、SNSの投稿で注目を浴び、会員数が近年急増。注文が殺到したため2022年6月から新規の会員登録を停止しているという。
店の担当者は「会員数は非公開」とし、「立場があるからお譲りするわけでもない。会員はさまざまな人がいる。政治家もいるが、全体の数からいうと多いわけではない」と話す。
世耕氏がよく利用しているのか尋ねると「個人情報に関わることなので言えない」とのことだった。

ロッキード事件でアリバイに

ロッキード事件で逮捕され、東京地検を出る田中角栄元首相=1976年7月、東京・霞が関で

ロッキード事件で逮捕され、東京地検を出る田中角栄元首相=1976年7月、東京・霞が関

この老舗洋菓子店は、1976年に発覚した「政治とカネ」を巡るロッキード事件にも登場する。
検察が押収した田中角栄元首相の秘書の手帳に、店の名前が書かれていたのだ。
店の付近で現金授受があったとにらみ、検察側が追及すると、秘書は「店に菓子を引き取りにいった」として現金授受を否定した。
ところが、手帳に記された日は店の休業日だったことが、法廷に呼ばれた店の経営者の証言で判明。秘書のアリバイが崩れることになった。

◆地元支援者「世耕さんからもらった」

裏金から支出した時期とは異なるが、2023年に世耕氏から直接、この老舗洋菓子店の高級クッキーをもらったという人物が現れた。自身のブログに赤裸々につづっていた。
この人物は、世耕氏の資金管理団体「紀成会」の収支報告書によると、世耕氏の有力な地元支援者のようだ。世耕氏の選挙区である和歌山市在住。「会社相談役」という肩書きで、2020~22年の3年間に総額236万円を献金していた。
この地元支援者のブログで、自身を和歌山市内の木材加工会社の相談役と紹介している。
ブログでは、2023年11月ごろ、東京都内で世耕氏と会食。世耕氏と別れた後、「世耕さんからもらったクッキー缶を片手に」銀座のクラブに立ち寄ったと明かしている。

◆「クッキー缶のおかげでヒーロー」

クラブでクッキーを振る舞うと、「ホステスのみんなからは今まで聞いたことのないような歓声が」と明かし、「クッキー缶のおかげで今夜はヒーロー。世耕先生、ありがとう」とつづっていた。
 
世耕氏から老舗洋菓子店のクッキー缶をもらったことをつづった地元支援者のブログ

世耕氏から老舗洋菓子店のクッキー缶をもらったことをつづった地元支援者のブログ

木材加工会社の関係者は、この地元支援者について、本紙の取材に「社内では相談役と呼んでいる」と明かした上で、ブログの執筆者であることも認めた。ただし、ブログの内容については「本人が出張中で分からない」とのことだった。
公職選挙法では、政治家が選挙区内の人に金品を贈ることを禁じている。
世耕氏の事務所に、ブログに書かれた内容が事実か尋ねたが、「お答えしない」とのことだった。

◆世耕氏「会食費の負担という思いで」

世耕氏は8日になって、国会内で報道陣の取材に応じた。
世耕氏は、高級クッキーを贈った地元支援者を「個人的にお付き合いのある経営者」と明かした。
クッキーを贈った経緯については「こちら側から応分の(会食)費用負担をお願いしたが固辞された。せめて一部の負担をという思いで(クッキー)をお渡しした」と説明。「いわゆる公選法違反が禁じる寄付には当たらない」と違法性を否定した。