医師の働き方改革 負担減と地域医療の両立を(2024年2月18日『河北新報』-「社説」)

 医師不足、地域や診療科の偏在といった根本的な問題が横たわる中で、苛烈な労働環境を改善しながら地域医療を維持していかねばならない。命に関わる大きな社会問題として知恵を絞る必要がある。

 勤務医の時間外・休日労働時間に罰則付きで上限を設ける「医師の働き方改革」が4月に始まる。

 医師やトラック運転手などを除いた職種の残業上限規制(原則年360時間、最長年720時間)は、2019年度から実施されている。医師には診療を原則拒めない「応召義務」があり、5年の猶予期間が設けられていた。

 4月から設定される上限は原則年960時間で、他職種より200時間以上も多い。月に換算すると80時間で、脳・心臓疾患の労災認定基準「過労死ライン」に相当する。

 地域の救急医療に携わる医療機関などは都道府県の指定を受け、特例として年1860時間まで延長できる。月換算で155時間にも上る時間外労働は、過労死ラインのほぼ2倍となり尋常ではない。

 医師に対する面接指導や、休息時間を確保する「勤務間インターバル」といった対策が義務付けられたが、十分とは言えまい。

 文部科学省は22年、全国の大学病院で勤務する医師の労働時間を推計する調査を実施。勤務体系が明確な約4万4000人のうち約1万5000人は、24年度の残業と休日労働が960時間を超えると予測した。

 大学病院は診療のほか教育や研究にも取り組んでおり、一般医療機関より長時間労働になりがちだ。医師が自らの命を削りながら業務に従事している状況は看過できない。

 過重労働の解消にはほど遠い「働き方改革」だ。それでも、地域医療に大きな影響を及ぼすと懸念されている。

 厚生労働省の統計によると、20年末の人口10万人当たりの医師数は全国で256・6人だった。東北は福島の205・7人を最低に全県で全国を下回る。

 過疎の病院では、働き方改革を理由に大学病院からの医師派遣が打ち切られた事例が出ている。勤務管理の徹底やデジタル化は進むが、地方の現行体制は限界に近い。

 医師不足を補い、負荷を軽減するには、一定の診療行為ができる看護師「ナース・プラクティショナー(NP)」の活用も有効ではないか。

 米国、オーストラリア、オランダなどはNPを公的な資格として認める。日本は、民間団体の認定試験に合格した看護師で、役割は医師の指示に基づく診療補助にとどまる。訪問看護で患者が急に苦しんでも、簡単な診療もできない。医師の指示を仰ごうとしても手術や往診で連絡が取れないことが多いとされる。

 日本医師会などの抵抗は強いが、地方の医療崩壊を防ぐため、タブー視することなく検討すべき課題だろう。