生態系保全の認定制度 民間の取り組み支えたい(2024年3月9日『毎日新聞』-「社説」)

多くの希少種が確認され、生物多様性の保全に貢献しているとして自然共生サイトに選ばれた「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」=長野県上田市で2023年7月7日、田中泰義撮影
多くの希少種が確認され、生物多様性保全に貢献しているとして自然共生サイトに選ばれた「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」=長野県上田市で2023年7月7日、田中泰義撮影

 豊かな生態系を保全する民間主導の取り組みを、さらに後押しする必要がある。

 企業やNPO自治体の活動によって生物多様性が守られている場所を、環境省が「自然共生サイト」として認定する制度が、2023年度に始まった。

 国際社会は、30年までに陸域、海域の各30%を保護する目標を掲げる。日本では、公的規制がかかる国立公園などを中心に、陸域約20%、海域約13%にとどまる。

 新しい制度の狙いは、規制によらない方法で保護域を広げることだ。里地里山や公園、社寺林などが対象となる。

 昨年10月に第1弾の122カ所が選ばれ、先月発表の63カ所が加わって計185カ所となった。当初目標の100カ所を上回る順調な滑り出しだ。

海藻のカジメが育つ関西空港の護岸。海の生態系保全に寄与する場所も自然共生サイトに選ばれている=関西エアポート提供
海藻のカジメが育つ関西空港の護岸。海の生態系保全に寄与する場所も自然共生サイトに選ばれている=関西エアポート提供

 東京都の面積の約4割に相当する計8・5万ヘクタールが認定された。札幌市の大学キャンパス、東京・大手町のビル敷地の緑地、長野県のワイナリー、和歌山県の工場などサイトの様態はさまざまだ。

 申請者の約6割を企業が占め、関心の高さがうかがえる。

 創薬や食料品などには動植物が利用され、生物多様性が社会・経済活動を支えている。人間活動が種の絶滅を加速させており、生態系に配慮したビジネスが欠かせなくなっている。

 企業活動の影響について、情報開示を促す国際的な制度が導入されたことも背景にある。新たな投資基準となる可能性が高い。

 ただし、自主的な活動のため、企業業績が悪化したり、トップの考えが変わったりすれば継続されなくなる恐れがある。資金や人手が不足しているところも多い。

 実体を伴わない「見せかけ」で終わらせないよう、保全状態をチェックする体制を構築することも重要だ。

 政府は、民間の取り組みを支援する新しい法案を閣議決定した。活動計画を大臣が認定し、助言体制を整える。活動に対する企業などの貢献を証明する仕組みの導入や税制上の優遇措置も検討する。

 自然共生サイトは、地域住民や子どもの学びの場にもなる。生物多様性の損失に歯止めをかけ、豊かさを取り戻す流れを、官民を挙げて作らなければならない。