中池見の盛り土撤去 湿地保全への理解さらに(2024年2月26日『』-「論説」)

 鉄道建設・運輸施設整備支援機構は今春、ラムサール条約に登録されている敦賀市中池見湿地の「後谷(うしろだに)」について、盛り土を撤去し湿地を復元する工事に着手する。北陸新幹線の深山トンネル工事で沢の水量が減った環境変化の代償として行う。湿地保全に取り組む地元NPOが「画期的」と評価する事業。生物多様性の回復、維持へ市民を巻き込んだ取り組みになるよう期待したい。

 盛り土は1999年、水田や畑だった場所に別の事業者の開発によって運び込まれた。開発計画は埋め立て直後に延期され、2002年に中止となった。

 深山トンネル工事に際し、鉄道・運輸機構は湿地への影響を可能な限り減らそうとルートを変更したほか、防水シートでトンネル全周を覆った円形断面構造を北陸新幹線ルートで初めて採用し、地下水の減少抑制にも努めた。

 ただ、一連の対策をしても、深山から後谷へと流れ込む二つの谷筋で流量の減少を確認。有識者による専門家委員会では、地下水位は緩やかに上昇し10年程度の期間を経て落ち着くとされたものの、流量が100%戻るのは難しいとの見解が示された。このため盛り土をした当事者ではない鉄道・運輸機構が代償措置として土を撤去し湿地空間をつくることになった。

 人間の活動で発生する環境への影響を緩和する手法に「ミティゲーション5原則」と呼ばれる考えがある。1970年ごろ米国で始まった。深山トンネルのルート変更や今回の盛り土撤去などはこれに添うものだ。

 地元NPOは機構の決定を歓迎して受け止めている。SDGsの推進や、自然破壊に歯止めをかけ自然を豊かにするネーチャーポジティブの考えが重視される中で、中池見湿地の重要性が改めて証明されたとの思いからだ。

 専門家委員会の2月会合では、2024年度内に整備を終えるスケジュールも決まった。復元後のイメージは1990年代当初。延長約100メートル、高低差約2メートルを畦畔(けいはん)で四つに区切ることで、下流の学習田まで湿地空間が連なることになる。

 敦賀市が事務局を務める「中池見湿地保全活用協議会」は今後、後谷エリアの保全の方向性を検討していく。外来種の駆除や草刈りの予算、労力など具体的な議論も進むだろう。

 ただ、保全活動が前向きに進むには市民の幅広い協力が不可欠だ。地元NPOは近く活動報告の場を設ける。北陸新幹線の開業を機に湿地エリアが広がる新たな中池見。市街地にほど近い、多様な生きものが生息する「市民の財産」との認識を改めて持ちたい。