日産が下請法違反に関する社説・コラム(2024年3月6日)

日産が下請法違反 一方的な減額は許されぬ(2024年3月6日『山陽新聞』-「社説」)

 

 下請け業者への納入代金について、一方的に減額したのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会が大手自動車メーカーの日産自動車横浜市)に対し、再発防止を勧告する方針を固めた。下請け企業30社以上を対象に計約30億円を減額した疑いがある。約30億円の減額は、1956年の下請法施行以来、最高額になる見通しだ。

 日産による不当な減額の強要は数十年前に始まり、常態化していた可能性がある。下請け業者側は取引が打ち切られることを恐れ、減額を拒否できなかったとみられる。

 日本経済の持続的な成長に向け、下請けなど中小企業の賃上げが最重要課題となる中、適切に価格転嫁できる環境づくりに大企業が果たすべき責任は大きい。日産は公取委の指摘を認め「(減額分の)全額を業者に返金した」としている。だが、取引上の強い立場を利用した不当な行為は断じて許されない。

 日産は不正行為が長年続けられてきた事態を重く受け止め、猛省すべきだ。再発防止策の徹底も強く求められる。

 公取委は、日産が遅くとも数年前からタイヤホイールなどの部品メーカーに対し、事前に決めた金額から数%前後を減らしていたと認定する方針だ。前年度の支払金額を下回るよう減額割合を決めていたという。下請法は、下請け業者側に原因がある場合などを除き、一度決めた代金を一方的に減額することを禁じている。

 自動車産業は、大手メーカーから発注される部品をつくる下請け企業のサプライチェーン(供給網)の裾野が広く、重層的な構造になっている。こうした構造の業界では、下請け企業の交渉力が弱く、十分な価格転嫁が進みにくい状況も指摘される。

 強く懸念されるのが、今回のような事例が、他の自動車メーカーでも行われていないのかという点だ。各メーカーは、自社の取引や価格交渉の状況を改めて点検することが重要だろう。

 実際、原材料や人件費といったコスト上昇分を巡り、中小企業の価格転嫁は十分には進んでいない。中小企業庁が昨秋に約30万社を対象に行った価格転嫁に関する調査によると、「全く転嫁できていない」と答えた企業は18・5%に上った。昨春の前回調査に比べ約3ポイント下がったものの、依然として2割近くが価格転嫁できていない厳しい実態が浮き彫りになった。

 人件費の上昇分に関し政府は昨秋、取引価格に転嫁できるようにするための指針を公表した。「発注者から協議の場を設けること」「経営トップが関与すること」といった項目を掲げた。

 発注側との力関係から価格転嫁を訴えるのが難しい中小企業は少なくないとされる。国や関係機関は、中小企業の声を丹念にすくい上げ、取引環境の適正化につなげてもらいたい。

 

下請けいじめ】日産は悪弊と決別せよ(2024年3月6日『高知新聞』-「社説」)

  
 世界市場を舞台に闘う上で、コストの低減を図る努力は当然のことだろう。ただ、越えてはならない一線が当然ある。優位な立場を利用した圧力は公平さを欠く。大企業のエゴは許されない。
 部品メーカーなどの下請け業者に支払う代金を一方的に減額したのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会が近く、日産自動車に再発防止を勧告する方針を固めた。この数年間で計約30億円の減額を強要していたとみられる。極めて悪質な「下請けいじめ」と断じざるを得ない。
 下請法は、下請け側に原因がある場合などを除いて、一度決めた代金を一方的に減額することを禁じている。約30億円の減額は同法が施行された1956年以降、最高額となる見通しだ。
 日産は遅くとも数年前からタイヤホイールといった部品メーカーなど30社以上に対し、前年度の支払い実績を下回るよう、事前に決めた金額から数%を減額させていたとみられる。認定された期間内に10億円以上減額された業者もあった。不当な減額は数十年前に始まり、常態化していた可能性もあるという。
 下請け業者も生産の効率化で対応できる範囲には限界があろう。ただ、拒否すれば取引を打ち切られる恐れもある。泣き寝入りするしかなかったのではないか。
 電気自動車(EV)の台頭などを背景に変化もみられるが、自動車業界は大手を頂点としたピラミッド形の構造に例えられてきた。その分、いびつな取引関係にも陥りやすいとの指摘もある。裾野が広く、影響力が大きいだけに、大手には業界全体の発展に貢献する意識と自制が求められたはずだ。
 大手の抑圧的な取引の影響は下請け業者の業績にとどまらない。中小企業で働く労働者の賃金に直接影響し、広く国内経済へのダメージになる。そうした悪循環が長年にわたるデフレの要因になってきた。
 日本経済は今、ようやくデフレ脱却への入り口に立った。物価高を上回る賃上げが中小企業に広がるか、持続的な成長軌道への鍵を握る。実現には原材料費や燃料費、人件費の上昇分を適切に価格転嫁できることが重要となる。
 公取委も近年、賃上げ環境を阻害する下請けいじめ対策を強化していた。2022年12月には、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に該当する可能性があるとして13の企業・団体名を公表。昨年11月には労務費を取引価格に転嫁できるようにするための指針も出している。
 日産も、政府主導で下請け業者との取引適正化に努める「パートナーシップ構築宣言」に参加していた。その趣旨に反し、下請けの犠牲の上に立って、自社の利益のみを追求していたことになる。
 下請けいじめの悪弊は、さまざまな業界に根強く残っている。公取委が受け付けた下請法などの相談件数も増加傾向にある。しっかりと目を光らせる必要がある。