救急到着10分超 賢い119番利用広げたい(2024年3月5日『東京新聞』-「社説」)

救急車到着、初の10分超 22年、出動件数も過去最多(共同通信 ).

 

 「10分の壁」を超えた危機感を共有したい。総務省消防庁のまとめによると、119番通報を受けて、救急車が現場に到着するまでの全国平均時間が2022年、前年比1分近く延び、10・3分になった。救急搬送や医療現場の逼迫(ひっぱく)ぶりを反映している。
 救急車の到着時間はこの20年で4分も遅くなった。遅延化に歯止めがかからぬ原因は、高齢者の増加などに伴い、出動要請の右肩上がりが続くからだ。かねて問題視されているのは、搬送された人の半数弱が、実は軽症だったという事実。消防庁は不要不急の要請を控えるよう再三、啓発するが、その効果は限定的なようだ。
 急を要しない119番通報への対応に追われ、真に必要な患者に迅速に対処できない事態に現場は頭を痛めている。救急医療は時間との闘いだ。1分、2分の遅れが患者の命や後遺障害にも影響しかねない。専門家らでつくる日本搬送学会(代表・野口宏愛知医科大名誉教授)が「救急車の有料化」を含めた検討を求めるなど、緊急アピールを発したのは、現場の危機感を代弁していると言える。
 傷病者の負傷の程度や重症度に応じて治療の優先順位を決めることを「トリアージ」と呼ぶが、一般市民が自分で判断するのは難しく、危険でもある。救急車を呼ぶべきか、と迷った時の助けになるのが、消防庁が広める電話相談「#7119」だ。しかし、エリアはまだ首都圏などが中心で、中部地方の愛知や三重、静岡、滋賀の各県や北陸3県など広範囲で未実施だ。全国カバーを急ぎたい。
 民間の取り組みもある。看護師らが24時間、電話やラインで診療相談に応じる医療ベンチャー、ファストドクター(東京)はトリアージ的な機能を果たし、状況次第では有料で緊急往診やオンライン診療もするという。
 新たな試みを始めた自治体もある。津市は、救急対応も担う消防団員を事業所単位で任命する制度を始めた。近くで救急事案が発生した場合、消防本部からの出動指令を受け、救急車が到着するまでの応急手当てをする。第1弾として任命された地元郵便局員14人は講習などを重ねている。
 安易な救急車要請も、逆に、個人の判断で救急車を呼ばず、深刻な結果を招くのも問題だ。「賢い119番利用」を社会に浸透させる努力を続けたい。