「ノリの悪い株価4万円」ジュリアナの女王は、バブルの熱狂を知らない1985年生まれの記者を一喝し(2024年3月5日『東京新聞』)

 日経平均株価(225種)が4日、史上初めて4万円を超えた。現行の株高で、1980年代後半から1990年代初頭のバブル景気のような高揚感を感じることはできない。バブルの象徴として取り上げられるディスコ「ジュリアナ東京」で一世を風靡(ふうび)した荒木師匠こと荒木久美子さんに、当時の熱狂と今を比較してもらった。(聞き手・山田晃史)
 
令和の株高について語った荒木久美子さん

令和の株高について語った荒木久美子さん 

◆アイスペールでヘネシーを回し飲みしていた客たち

日経平均がこれまでの最高値だった1989年は私は4歳で記憶がないのですが、どんな世の中だったか教えてください。
 
 まだ社会に出ていなかったので詳しくないですが、銀座でママをやっていた母はかなり忙しそうだった。当時働いていたイベントコンパニオンの先輩からは、ジュンコシマダとかピンキー&ダイアンとか(国内メーカーの高級ブランドである)DCブランドの10万円近くするスーツが支給されて、仕事が終わったら全部もらえたりした話を聞きました。仕事の打ち上げは船上パーティーだったり、名刺をもらったお客さんに高価なフレンチに連れてってもらえたりした時代だったようです。
 
ジュリアナ時代の荒木久美子さん(本人提供)

ジュリアナ時代の荒木久美子さん(本人提供)

 

―ジュリアナがオープンした91年は株価は既に下がっていましたが、熱狂は続いていたんですか。
 
 ジュリアナはアフターバブルですね。まだ日本はそんなに景気が悪くなかった。ジュリアナのVIPのお客さんは不動産や自動車関連が多くて、セカンドVIPというのもあってサッカー選手が多かったですね。(氷を入れる容器の)アイスペールにお酒を入れて回し飲みして、最後の人がそれを頭からかぶるというのをやっていた。私はお酒を飲まないのでその場には入らないですが、中身は多分、(ブランデーの)ヘネシーとか高いお酒。狂乱の様です。
 
―アイスペールで回し飲みはしたことありますが、安いワインか焼酎でしか経験ありません。
 
 ヘネシーなんてかぶるような酒ではないですよね。あとは、大きいメロンを半分に切ってヘネシーを薄めずに入れて食べるのをやっていましたね。ちょっと贅沢(ぜいたく)なデザートみたいな。高級シャンパンにイチゴを入れたりとかも。ただ、ブランドスーツが10万円くらいするのに、私が着ていた水着みたいなボディコンって1万円もしないで買えるんですよね。今思うと不景気って反映されていたのかな。

◆お立ち台は暑くて…ジュリ扇を「開発」

―バブル時代は肩パッドの入ったスーツ、ジュリアナはボディコンと羽根扇子の印象が強いです。
 
 スーツみたいな服だと手を上げて踊ったりしにくいでしょ。踊っていると暑いからボディコンも露出が激しくなっていった。扇子も暑さ対策でしたよ。
 
―ジュリ扇と呼ばれた羽根扇子も師匠が発明したとか。
 
 発明ってほどじゃないけど、扇子を持って踊ることを発案した人ってことですね。暑いお立ち台から下りて休憩しても、ジュリアナはメニューとかなくて扇(あお)げるものがない。銀座でママをしていた母が着物を着ていたので、扇子を借りて持っていったのが始まり。金と銀の扇子で和風に見えないやつだったかな。胸の谷間に挟んで、曲のトーンが落ちた時に扇いでいたら、みんなが見ていた。これはいいと思って服装に合わせた扇子を使っていたら、はやりだした。羽根扇子になったのは、ハロウィーンで悪魔の仮装した時に中国雑貨店で買った黒の羽根扇子を使ってからかな。
 
◆アッシーくん、メッシーくん、ミツグくんが「三種の神器
 
―お立ち台で踊っている時はどんな気持ちでしたか。
 
令和の株高について語った荒木久美子さん

令和の株高について語った荒木久美子さん

 気分は宗教家よね。みんなが私に注目しているし、「地球を牛耳ったよ」って感じだった。当時は、お財布を持たずに行きの電車賃だけで遊べた。ジュリアナに無料で入って、お金持ちのお客さんに「一緒に飲もう」って誘われて車代ももらったりして。六本木とか別の店に移動するにも(車で送り迎えしてくれる)アッシーくん使ったり、行った先で別の金持ちにおごってもらったりして、それがぐるぐると回って続いていた。
 
―アッシーくんは聞いた事あります。食事をおごってくれるメッシーくんもいるんですよね?
 
 (物品をプレゼントしてくれる)ミツグくんを忘れないで! アッシーくん、メッシーくん、ミツグくんの3人合わせて当時の「三種の神器」なんだから。

◆使うお金も多かったけど、給料も高かった

一時、4万300円台になった日経平均株価を表示するモニター=4日、東京都内で

一時、4万300円台になった日経平均株価を表示するモニター=4日、東京都内で

 

―師匠がもらった一番強烈なプレゼントは。
 
 クジャクのつがい。名前はジュリーとアナ。普通の家で飼うのは無理なので、家の地主さんの所に「よかったらどうぞ」っていうことがありました。お金持ちの間で彼女とかに変わったペットをプレゼントするのがはやったことがあって。友達がフェレットを買ってもらったら、別の友達がワラビーが欲しいって言い出して買ってもらおうとしていた。「マンションだと無理無理。食器棚とか全部壊れちゃうよ」ってみんなで必死に止めた。当時はお金があればなんでもできるってノリがありましたよね。
 
―ジュリアナの頃はとても楽しそうな時代だと思いますが、今の株価は史上最高値です。
 
 景気にバブル感は全然ないですよ。物価が高いのに給料は上がっていなくて、今はみんな苦しいじゃん。あまり浮かれている人なんていないよ。ジュリアナの頃は、使うお金も多かったかもしれないけれど、給料も高かったから、みんな浮かれていたんですよ。今は払うものが高くなっているのにもらえるものが少ないから。だから世の中はノリが悪い状態になっているよね。

◆「老後の貯金が大事」が生存本能になった

―ジュリアナ時代と今の違いは。
 
 今は怪しい人は社会的に駄目だという風潮があるけれど、当時は怪しいのが格好いいという文化があった。名前も年齢も知らないけれど、酒癖は悪くないとか踊るのがうまいとか、それくらいの情報だけで毎週遊んでいた。
 
令和の株高について語った荒木久美子さん

令和の株高について語った荒木久美子さん

 今の男性はおとなしくなった。草食とかそれこそ恋愛に全く興味のない絶食系男子とかが出てきたのは、不景気が長かったからだよね。昔は普通のサラリーマンでそこそこの会社に勤めていたら、年収500万円はもらえていたわけです。真面目に働いてもその水準に達せない男子は、恋愛とかしてる場合じゃないし、結婚なんか考えられないとかね。「老後の貯金の方が大事」っていうのが生存本能みたいになっている。このままだと、経済なんて活性化しないだろうね。
 
―師匠はいまだパワフルですね。
 
 私、開業医と結婚して33歳の時に離婚しているんですよね。親や夫に養ってもらって生きる子どものような時代が終わって、自分のビジネスをやって生きていかなければと思った。日本で最初のネットビジネスの塾に入って、最初は男性向けのモテるためのメールマガジンをやったけれど、女性の結婚事情の方が厳しい時代だと気付いて婚活塾を開きました。
 
現在はモデルやインフルエンサーの育成も手がけている(荒木久美子さん提供)

現在はモデルやインフルエンサーの育成も手がけている(荒木久美子さん提供)

 婚活塾では200人くらい教えてきました。見た目は芸能人、モテ力は銀座のママ並みになるよう、恋愛心理学やファッション、美容と幅広く指導しています。婚活向けファッションの専門店も運営していて、ブランドを写真や動画でアピールするため、モデルやダンサー、(交流サイトで影響力を持つ)インフルエンサーの育成もしています。やりたいことでお金もいただいているので、幸せなんですよね。

◆諦めることから人生始まっている、みたいな

―当時に戻ってみたいと思いますか。
 
 今の方が幸せだから、戻りたいという気持ちはないかな。荒木師匠という名前はあったけれど、仕事とか自分を確立していなかったし、自分に合うパートナーも分からないし、正直つらかった。今は56個の条件を備えた「高身長・高収入・家事好きの旦那」と結婚して、自分のやりたい仕事でたくさんのお金を稼げているから全然幸せ。見た目も小じわとか多少出ているかもしれないけれど、髪形やファッションは昔よりあか抜けている。全体の雰囲気やあか抜けは若さを超えると思うので、自分は向上を続けているはず。
 
―景気が上向くには何が必要ですか。
 
 バブルを知らないとさ、諦めることから人生始まっているみたいな感覚が若い人の中にあるのかもしれない。特に男性がおとなしいのが心配。女性は洋服や化粧品、エステ、旅行と消費行動が盛ん。男性が自信を持って恋愛にお金を使えるようにならないと、少子化なんて止まるわけないし、経済も低空飛行のままじゃないかな。独身世代の給料をもっと上げなさいと思う。
 

 荒木 久美子(あらき・くみこ) 愛称は荒木師匠。1991年にオープンしたディスコ「ジュリアナ東京」で、ボディコン姿に羽根扇子を振って踊る元祖扇子ギャルとして活躍し、お立ち台の女王とも呼ばれた。テレビ朝日「トゥナイト」などバラエティ番組にも数多く出演。母親と銀座のバーラウンジを20年間経営し、モテるノウハウをセミナー化。現在は婚活トレーナーを務めるほか、モデルやインフルエンサーの育成も手がける。公式ブログ「荒木師匠の修行日記」、インスタグラム公式アカウントは@arakishishou