救急車サイレン、不協和音「ギュイーン」全国に拡大中…「人をイライラさせ確実に認識」(2024年2月29日『)

 救急車や消防車の緊急走行で、従来の「ピーポー」や「ウーウー」とは異なるサイレン音が広がっている。「ギュイーン」という不協和音だ。交差点への進入や渋滞時にドライバーや歩行者に気付いてもらうことを重視した「高警告サイレン音」で、事故防止につながるとして、全国の消防車両の約2割に導入されている。(坂戸奎太)

 堺市消防局の救急隊員が、消防車の運転席にある「交差点」「渋滞通過」と書かれたスイッチを押すと、「ギュイーン」という不快な音がそれぞれ10秒間、響き渡った。同消防局では、救急車の半数の16台に導入している。

 緊急車両のサイレンの鳴動は、道路交通法で義務付けられている。自治省(現・総務省消防庁が1970年に出した「電子サイレンに切り替える」との通知などを基に50年以上、救急車のサイレン音は「ピーポー」、消防車は「ウーウー」が主流だった。

 ところが、消防隊員らから「通行を優先してもらえない」との声が上がるようになり、回転灯製造会社大手の「パトライト」(大阪市中央区)が2014年に新たな音を完成させた。

 同社は▽車の密閉性が向上して音がドライバーに届きにくくなった▽耳が慣れ、緊急性を感じにくくなった――との社内の分析を踏まえ、「ウー」という音に特殊な音源を組み合わせることで、さらに高周波と低周波の音を同時に生み出した。

 高周波音は歩行者に聞こえやすく、低周波音は車の窓ガラスが閉まっていてもドライバーに届く。同社西日本営業課の新宮弘之課長は「広範囲に届く上、人をイライラさせるので確実に認識してもらえる」と話す。

 1基約10万〜20万円で年間1000台ほど出荷。堺市大阪市の消防局など全国約200の消防本部で導入され、全国の消防車両約5万台のうち2割の約1万台に搭載されているという。

 福山地区消防組合消防局(広島県福山市)は21年度以降、消防団のポンプ車5台に導入。「効果的に周囲に注意喚起でき、安全確保が図れる」として23年度は救助工作車1台にも搭載した。今後、台数を増やす。社会科見学で訪れた小学生らに音を聞かせて認識してもらう啓発も行っている。

 緊急車両による事故の多くは交差点で発生し、安全確保が課題となっている。警察庁によると、13〜22年に緊急車両が起こした事故は16〜43件。交差点が半数以上で多い年は8割以上だ。

 他の緊急車両への導入も進む。高知県警はパトカーなど約20台に搭載。新たなサイレン音の車に乗務した警察官の95%が「存在に早く気付いてもらえた」「道を譲ってもらえた」と前向きな効果を実感したという。

 広島国際大の安田康晴教授(救急現場活動学)は「緊急車両が近づいていても、音楽を聴いたり、会話をしたりしていれば気づきにくく、不快な音で認知させる試みは評価できる。ただし、音量は道路運送車両の保安基準(1951年策定)から見直されておらず、現代に適合していない。音量自体を大きくすることも検討すべきだ」と指摘する。