裏金事件の政倫審(2024年2月29日)

自身の衆院政治倫理審査会の出席について取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2024年2月28日午前10時49分、竹内幹撮影

 

政倫審開催決定 首相の覚悟が問われる(2024年2月29日『山形新聞』-「社説」/『茨城新聞佐賀新聞』ー「論説」)


 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、岸田文雄首相が衆院政治倫理審査会に自ら出席する意向を表明した。報道陣を含め審査を全面公開し、「説明責任を果たしたい」と述べた。

 審査の対象になった安倍派幹部らの反発もあって、公開審査を認めるかどうかで自民党の対応が二転三転。その結果、政倫審が開催できなければ、支持率低下が一層進むと危惧したためであろう。

 最終的には安倍派幹部らも首相に倣う形で、29日から始まる政倫審は全面公開になった。首相の決断が、膠着(こうちゃく)していた事態を動かしたことは評価できよう。

 だが、この間の経緯を見ると、党総裁である首相の指導力不足は否めない。現職首相として初めてとなる政倫審出席で国民の疑問に応える説明ができず、範を示すことができなければ、党および政権への不信感がさらに増幅するという覚悟を持って臨んでもらいたい。

 2018年からの5年間で、政治資金収支報告書に記載していなかった総額は約5億8千万円に上る。その政治的、道義的責任を明らかにするため、与野党は先週、28日から2日間、衆院政倫審を開催する日程で大筋合意していた。審査の対象になったのは、安倍派の松野博一官房長官、高木毅前国対委員長西村康稔経済産業相塩谷立文部科学相と、二階派武田良太総務相の計5人。

 野党は還流資金を収支報告書に記載していなかった衆院議員51人の出席を要求。これに対し、自民党は政倫審規程に基づく本人の審査申し立てがあったとして、派閥で実務を担う事務総長経験者に限って受け入れた。

 政倫審は原則非公開だが、対象議員が了解すれば公開される。自民党側は当初、全面非公開を主張した。しかし、27日、一部議員については報道陣の取材を容認しているとしたため、その議員を対象に先行審査する案が浮上した。ところがその日のうちに出席拒否に転じて、与野党協議は不調に終わり、28日の開催は見送られた。

 公開の下での出席を拒否するなら、理由を明らかにすべきだが、野党によると、提示はなかったという。これでは政倫審を開催するということだけをもって、問題の幕引きを図っていると批判されても仕方あるまい。

 能登半島地震対策費などを盛り込んだ24年度予算案を審議しているさなかである。一日でも審議の遅れは惜しい。首相が自民党総裁として政倫審公開に向け明確な指示を出していれば、時間を浪費せずに済んだはずだが、首相は「国会で判断されるべきものだ」などと繰り返してきた。行政府の長としての立場もあるが、自民党を率いる立場でもあることをどう考えていたのか。

 国民が知りたいのは、巨額の裏金づくりが誰の指示でいつから始まったのかと、その目的や具体的使途であろう。首相が責任を自覚しているなら、政倫審で裏金事件にまつわる疑問に誠心誠意答えるよう安倍派幹部らに厳しく申し伝える必要がある。同時に大臣規範に反すると疑惑の目が向けられている首相自身の政治資金パーティーや就任祝賀会についても説得力ある説明が求められよう。共同通信鈴木博之

 

衆院政倫審】首相は説明の範を示せ(2024年2月29日『福島民報』-「論説」


 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会は迷走を重ねた末、岸田文雄首相が党総裁として出席する流れに急転した。全面公開で臨む岸田首相に安倍、二階両派の5人が追従する形で開催が決まった。名ばかりで終われば不信感は払拭できず、むしろ極まるだけだ。首相自ら説明責任の範を示す必要がある。

 公開の有無を巡る一連の与野党協議で、国民の疑念に背を向けるかのような自民党の消極的な姿勢が浮かび上がった。岸田首相の指導力も問われ続けた。

 突然の出席表明に際し、岸田首相は政倫審の開催が決まらぬ状況に「国民の政治に対する信頼を損ねる。政治不信がますます深刻になる」との強い危機感を口にした。新年度予算案の年度内成立に向けた衆院の採決期限が目前に迫る中、膠着[こうちゃく]化した局面打開の窮余の策なのだろう。しかし、こうした事態を招いた責任は首相自身にもある。

 政倫審への出席も、公開の有無も当事者の意向による、といった発言を衆院予算委員会で繰り返す姿に、協議を前進させる姿勢は伝わってこなかった。政倫審の仕組みにはかなうとしても、政治とカネ問題への不信感は、原則非公開という制度の建前でかわせるほど軽くはない。もっと早い段階で指導力を発揮すべきだった。今回も後手感が付きまとう。

 岸田首相を巡っては、就任を祝う会の主催団体が収益の一部とみられる資金を首相の関連政治団体に寄付した事実が明らかになっている。参加予定者宛て文書の問い合わせ先に岸田事務所の連絡先が記載されるなどしていた。野党は実質的に首相側主催の政治資金パーティーだと主張し、未記載の収支明細の開示を国会で要求した。首相は「任意団体による純粋な祝賀会だ」と応じていない。

 初日の政倫審で、この問題が取り上げられた場合、従来の説明や弁明をただ繰り返すようでは、政倫審は開く意味をなさなくなる。党総裁として出席を自ら申し立てた責任は、国民に届く覚悟を持った言葉で政倫審を先導することにあるのではないか。

 他の5人も同様だ。弁明すべきは野党にだけではない。国民に対してだと、肝に銘じてもらいたい。(五十嵐稔)

 

裏金事件の政倫審 目に余る自民の迷走ぶり(2024年2月29日『毎日新聞』-「社説」)


 派閥裏金事件を審査する衆院政治倫理審査会を巡り、自民党の迷走ぶりが目に余った。政治に対する国民の不信を本気で払拭(ふっしょく)するつもりがあるのか。これでは疑わざるを得ない。

 29日に岸田文雄首相らが出席し、ようやく開かれることとなった。当初、安倍派幹部ら5人が出席して28日から開催することで与野党が大筋合意していたが、ずれ込んだ。全面公開での審査を主張する野党に対し、自民が難色を示し、折り合いが付かなかったためだ。

 事態の膠着(こうちゃく)で窮地に追い込まれた首相が、自らの出席を表明するという奇策に打って出た。公開での質疑を拒んでいた安倍派幹部も応じざるを得なくなった。

 深刻なのは、この間に明らかになった自民の統治不全だ。

 本来なら首相が党総裁として関係議員に対し出席を指示すれば済む話である。にもかかわらず、「国会で決めていただく」と繰り返し、行き詰まるまで積極的に動こうとした様子はうかがえない。

 関係議員が出席を渋って逃げ回る中、党執行部も互いに責任を押し付け合うような振る舞いに終始し、当事者意識を欠いた。

 国民への説明責任を果たすという当たり前のことすら決められず、混乱を長引かせた。

 開催するのであれば、真相解明につなげなければならない。

 最大の焦点は、安倍派が長年どのように組織的な裏金作りを続けてきたかを明らかにすることだ。

 少なくとも森喜朗元首相が派閥会長だった約20年前から行われていたというが、始まった理由や経緯は判然としない。

 2022年には当時会長だった安倍晋三元首相が一旦中止する方針を示したという。にもかかわらず、安倍氏の死後に誰の判断で継続することになったのか。安倍派幹部の「5人衆」は知り得る立場にいたはずである。

 裏金が何に使われたかも問題だ。政治資金収支報告書に派閥パーティー券収入の還流や「中抜き」を不記載とした全議員が、使途を明らかにする責任がある。

 安倍派幹部らは政倫審で実態をつまびらかにすべきだ。「知らぬ、存ぜぬ」と繰り返すだけでは、政治家としての「倫理的義務」を果たしたことにはならない。

 

首相政倫審へ 内容のある答弁を聞きたい(2024年2月29日『読売新聞』-「社説」)

 岸田首相が自ら範を示すことで、国会の混乱を収拾しようという姿勢は評価すべきだろう。通り一遍の答弁ではなく、政治資金問題について丁寧に説明する必要がある。

 自民党政治資金規正法違反事件を巡り、首相が「党総裁としてマスコミオープンの場で説明責任を果たす」と述べ、衆院政治倫理審査会に出席する考えを示した。政倫審はきょうから開かれる。

 与野党は、いったんは政倫審を28、29日に開いて、安倍、二階両派の幹部5人を審査することで合意していた。だが、公開か非公開かを巡って折り合わず、28日の開催が見送られた。

 政治資金問題で、岸田内閣と自民党の支持率はともに著しく低下している。首相としては、政倫審さえ開けないようでは政権が持たない、という危機感から出席を決めたのだろう。現職首相の政倫審出席は今回が初となる。

 首相の出席を機に、安倍派幹部らもそろって政倫審に出席することになった。いつから「裏金」作りを始め、それをどのように使っていたかなどについて、具体的に内容のある説明をすべきだ。

 今国会で政治改革は重要なテーマだ。だが、この問題を巡る与野党対立の影響で、2024年度予算案や重要法案の審議が遅れることは避けねばならない。

 首相自身の説明が不十分で、政治不信が高まってしまった面も否定できないのではないか。

 今回の事件では、首相が昨年まで10年以上にわたって会長を務めていた岸田派でも、約3000万円の収支報告書への虚偽記入が発覚し、元会計責任者が立件された。首相は「事務的なミスの積み重ね」と述べるにとどめている。

 政府は01年に決めた大臣規範で、首相や閣僚による大規模なパーティーの自粛を定めているが、首相は22年、政治資金パーティーを7回も開いていた。

 しかし、首相は22年のパーティーを「勉強会だ」と主張し、大臣規範には反していないとの認識を繰り返し示している。これでは国民の信頼は取り戻せない。

 政倫審を巡る与野党折衝では自民党の対応が迷走した。審査を公開するかどうか、派閥幹部の意向を党執行部が十分に確認していなかったためだという。執行部の調整能力を疑問視する声は多い。

 首相がサプライズ効果にこだわり、党幹部らに十分な相談もなしに岸田派の解散を決めたことで、党内にしらけたムードが 蔓延まんえん したことも否定できない。

 

政倫審巡る混乱 自浄能力欠如の表れだ(2024年2月29日『東京新聞』-「社説」)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に関し、29日と3月1日の開催が決まった衆院政治倫理審査会自民党は開催決定に至るまで、出席者や公開の可否を巡って迷走を繰り返した。自浄能力の欠如を露呈したというほかない。
 政倫審は原則非公開で、弁明する議員本人が了解した場合に限って公開される。
 松野博一官房長官西村康稔経済産業相ら安倍派幹部4人と二階派武田良太事務総長は自ら出席を申し出たが、野党の公開要求には応じず、一度は出席の申し出を撤回した。
 多額の裏金づくりに関わった派閥の幹部らが国民に公開された場で説明すべきは当然と考える。
 派閥幹部が非公開でしか弁明しようとしなかったのは、自ら招いた政治不信の深刻さを理解せず、反省していないからにほかならない。説明責任を果たす意思があるのかも疑わしい。
 政倫審の開催を先延ばしし、裏金の実態解明を遅れさせた責任は極めて重い。
 党執行部の対応も稚拙だった。当人の希望とはいえ、非公開での開催に国民の理解はとても得られまい。萩生田光一政調会長二階俊博元幹事長らに出席を求めないことも理解し難い。

 党総裁である岸田文雄首相が自ら政倫審に出席して全面公開にも応じる考えを表明したことで、安倍派幹部ら5人も追随することになったが、党内調整で指導力を発揮できなかった首相が、自らの出席という「切り札」を使わざるを得なかったのが実情だ。
 政倫審で、首相は岸田派のパーティー収入不記載に加え、自身の脱法的な就任祝賀会についても説明を尽くすべきだ。また安倍、二階両派幹部には裏金づくりの経緯や使途を、特に安倍派幹部にはパーティー収入の還流を巡り中止を議論しながら継続した経緯についても説明するよう求める。
 政倫審開催は裏金の実態解明と再発防止に向けた第一歩に過ぎない。国民の納得できる説明がなければ、参考人招致や証人喚問なども必要になろう。国会は主体的、積極的に取り組まねばならない。

 

(2024年2月29日『東京新聞』-「筆洗」)

 

 もし大坂夏の陣豊臣秀頼が自ら出陣していたら。仮に徳川慶喜鳥羽伏見の戦いで江戸へ逃げ帰ることなく、自ら戦場に赴いていたら…

▼秀頼さんも慶喜さんも出陣せず、結果、味方の士気が上がらず敗れたと伝わるわけだが、いずれも「もしも」を考えたくなる歴史の局面である

▼大げさなたとえを持ち出してしまったが、この人にとっては今が自ら出陣しなければならない分岐点にみえたのだろう。岸田首相である。自民党派閥の裏金問題を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)に自ら出席する意向を表明した。党内に慎重論があった政倫審の公開についても応じるという

▼政倫審は議員から弁明を聞く機会といえど、出席自体が不名誉な印象もある。厳しい質疑も予想され、そこに首相が自ら「馬をとれ」とは正直言って驚いた

▼おそらく岸田さんが戦っている相手は野党ではなく、公開の形での政倫審への出席に慎重だった自民党議員である。このまま膠着(こうちゃく)状態が続けば自民党の支持率は致命的に低下する。この危機に自ら出席する意向を示すことで、当該議員に出席を促しているのだろう

▼「逃げれば危機は2倍、立ち向かえば半分」。英国のチャーチル元首相の言葉だそうだ。危機に立ち向かう気になったとしても岸田さんをほめる気はない。政倫審開催がここまでこじれたのは岸田さんの指導力不足のせいでもあろう。

 

首相が政倫審へ 肝心なのは説明の中身だ(2024年2月29日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 場当たり的に映る。 岸田文雄首相が、衆院政治倫理審査会への出席を申し出た。

 公開のあり方を巡って自民党と野党が対立し、28日の開催が見送られていた。首相は「与野党の駆け引きで見通しが立たないことは残念」と人ごとのように言い、公開して自ら説明するとした。

 政治資金パーティーの収入を裏金に回す工作は、安倍派で「20年以上前」から、二階派では「少なくとも10年前」から続けられてきたとされる。

 党が1989年にまとめた政治改革大綱が早々に形骸化していた実態を物語る。現に近年も、収賄や政治資金の虚偽申告、選挙での買収といった「政治とカネ」の不正が後を絶たない。

 自民は裏金問題を、カネとポストで議員を支配する派閥政治の構造腐敗を正し、与党としての信頼を取り戻す契機に転じなくてはならなかったはずだ。

 なのに、検察の捜査が本格化しても派閥の幹部たちは誰一人、説明の場に立たなかった。内部調査をしたかと思えば、いつ誰の指示で工作は始まり、裏金をどう使ってきたのか、肝心な点を明かさない。首相も「説明責任を果たすよう関係者に指示している」と繰り返すだけだった。

 野党の要請で政倫審に向けた協議が始まると、内情の暴露を恐れてか、出席する議員をわずか5人に押さえ込んだ。

 公開の是非では「完全非公開」から「議員の傍聴のみ」「記者の取材と録音は許可、テレビ中継は不可」と二転三転させた上、理由も語らず、28日の開催取りやめを通告している。自浄作用を働かせる気振りも感じられない。

 首相の意向を受け、政倫審は安倍派幹部を含む6人が出席し、29日と3月1日に全面公開で実施することにはなった。

 虚偽の発言をしても罪に問われず、審査会からの勧告にも強制力はない。首相や議員が誠実に答えているか、態度を含めて国民が見極めることに意味がある。公開に同意して当たり前だ。

 「今の状況のままでは国民の政治不信がますます深刻になる」。首相の認識は正しい。

 それだけに、党総裁として裏金問題の実態を把握しているか、内部調査の結果を超えて説明責任を果たせるかが問われる。国会答弁の焼き写しにとどまれば、局面打開にはつながらない。

 出席表明の“パフォーマンス”でけむに巻かれるほど、国民が抱く不信は浅くない。

 

裏金巡る政倫審 疑念払拭につながるのか(2024年2月29日『山陽新聞』-「社説」)

 

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会がようやく開かれる。きょう、あすの2日間。「政治とカネ」を巡る国民の疑念を払拭できるか問われている。

 与野党は先週、政倫審を28、29両日に開くことで大筋合意していた。しかし、報道機関の取材を含む「全面公開」を要求する野党側と、拒否する自民が対立。開催のめどが立たない中、岸田文雄首相がきのう、党総裁として「マスコミオープンの下で説明責任を果たしたい」と政倫審出席の意向を表明した。その後、既に出席を申し出ていた安倍、二階両派の計5人も全面公開に応じることになった。

 首相の言動が事態の打開につながったのは間違いないだろう。だが、真にリーダーシップを発揮すべきは、党所属の議員たちに真実を語らせることである。派閥の政治資金パーティーでパーティー券の販売ノルマ超過分を所属議員に還流する慣習はいつ、なぜ生まれ、資金を何に使っていたのか。安倍派では2022年、安倍晋三元首相の意向で還流取りやめがいったん決まったものの、安倍氏の死去後に方針撤回されている。幹部らがどう関わったのか。政倫審で真摯(しんし)に語るよう強く促すべきだ。

 国民が疑念を抱いているのは政治資金の不透明な流れである。透明にしなければ、国民の政治不信が収まることはあるまい。自民が先に公表した所属国会議員への聞き取り調査結果では、焦点である裏金の使途を巡り「会合費」「人件費」などを主なものとして列挙しただけにとどまり、実態解明には程遠い内容だった。政倫審で明らかにしてもらいたい。

 政倫審はロッキード事件をきっかけとして1985年、衆参両院に設置された。法令違反などの疑惑を持たれた議員に政治的、道義的責任があるかを審査する。ただ、証人喚問と違って偽証罪に問われることはない。衆院で過去9回開かれ、8人が出席したが、潔白を主張し「幕引き」を図る舞台に利用されたとの指摘もある。

 政倫審は原則非公開で、公開には本人同意が必要だが、国民の疑念の強さを考えれば、全面公開は当然の対応だ。自民が全面公開を受け入れ、政倫審の開催日程が決まった背景には、衆院で審議中の2024年度予算案がある。年度内成立を確実にするには来月2日までに衆院を通過させる必要がある。政府、与党は能登半島地震の被災地復興など「国民生活にとって極めて重要な予算だ」(岸田首相)として早期の成立を目指す。その審議日程を視野に入れ与野党が駆け引きを繰り広げてきた。

 予算審議はもちろん大事だが、裏金問題も徹底解明が求められる。政倫審を疑惑について「追及した」「答えた」というアリバイづくりの場にすることは許されない。

政倫審巡る混乱 首相の出席、違和感拭えない(2024年2月29日『中国新聞』-「社説」)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて衆院政治倫理審査会がようやく、きょうとあす開かれる。

 与野党が当初合意した日程での開催が見送られたのは、自民党が「完全非公開」に固執したからだ。

 きのう岸田文雄首相が突如、党総裁として出席の意向を表明し、安倍派の事務総長経験者ら4人、二階派の事務総長も一転、全面公開を受け入れた。政倫審を巡る党の混乱ぶりは見るに堪えない。

 報道機関の取材やテレビ中継を認めるのは当然である。開催は国民への説明責任を果たすために他ならないからだ。規則で原則非公開だからと拒む姿勢は理解できず、初めから応じるべきだった。二転三転した対応はさらなる政治不信を招いた。

 知りたいのは、総額5億8千万円近くに上る裏金の使い道と、安倍派の組織的な関わりの実態だ。議員は自らの言葉でつまびらかに話し、実態解明への一歩にしなければならない。

 それにしても首相の一手には違和感が拭えない。首相は政倫審を巡る混乱に関し「政治不信がますます深刻になると強い危機感を感じていた」と述べた。2024年度政府予算案を年度内に成立させるため、対象議員に全面公開をのませる手段として現職首相初の出席を決めたようだ。

 しかし、むしろ見えてきたのは公開を拒む議員を説得できなかった指導力の欠如だ。

 政倫審は疑惑が指摘された国会議員を審査し、政治的、道義的に責任があるのかを問う場である。今回の対象は裏金事件である。首相は安倍派の実態を知っているとでも言うのだろうか。党総裁の責任は当然あるものの、出席が趣旨に合うとは思えない。

 自身に関するパーティー開催についても弁明するという。22年に首相就任を祝う会を主催した任意団体が、収益の一部を首相の関連政治団体に寄付した件だ。事実上の政治資金パーティーで「脱法」だと野党から追及を受け、首相はこれまで「純粋な祝賀会」として否定してきた。自ら「政治とカネ」の疑惑だと認識し直すのだろうか。

 政倫審開催に向けた与野党協議の経緯を振り返ると、自民党は国民の憤りを軽んじているとの疑念が募る。野党は当初、裏金に関わった衆院議員51人の出席を求めた。それに対し、自民党は政倫審に出席義務がないのを盾に、5人だけの出席で押し通した。

 政治資金の収支をごまかしてつくった裏金を私的に使えば課税対象になるが、使い道は隠したまま―。納得できないのは特権的な扱いである。反省どころか、わが身を守ることを優先した態度も透ける。それこそが公開を拒んだ理由と国民は見抜いている。

 首相が本当に責任を自覚しているなら、政倫審で裏金事件に関する疑問に誠心誠意答えるよう、安倍派幹部らに厳しく指示する必要がある。大臣規範に反すると自身に向けられた疑惑についても同様である。それができなければ国民の不信感はさらに増幅する。覚悟して臨むべきだ。

 

首相出席し公開政倫審 進退かけ疑惑解明せよ(2024年2月29日『沖縄タイムス』-「社説」)

 迷走を重ねた末に岸田文雄首相が示した打開策は、自ら出席を表明することで党内に逆らえない空気をつくり、従わせるという手法だった。

 岸田首相は28日、記者団に対し「党総裁として説明責任を果たしたい」と述べ、衆院政治倫理審査会に出席する意向を明らかにした。

 首相が政倫審に出席したケースはなく、野党が出席を要求していたわけでもない。

 首相の窮余の策によって党内の流れが一気に固まり、29日と3月1日の両日、岸田首相を含む6人が出席し、全面公開で実施することが決まった。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡って与野党は当初、28、29両日に政倫審を開くことで大筋合意していた。

 政倫審への出席が予定されていたのは安倍派、二階派の幹部5人。

 政倫審は原則非公開となっているが、当事者の意向によって公開することも可能で、実際、過去9回のうち完全非公開は1回だけだ。

 だが公開か非公開かの開催方式を巡って与野党の折り合いが付かず、28日開催は見送られた。

 首相は指導力に欠け、自民党は組織の統率が取れず、対象議員は自己保身の姿勢が目立ち、混迷を極めた。

 窮余の策として打ち出されたのが首相の政倫審出席だった。派閥解消を宣言した時と同じ手法である。

 一連のドタバタ劇で改めて浮かび上がったのは、首相の指導力の欠如と自民党政治の劣化である。

■    ■

 説明責任を果たすということはどういうことか。

 国民が抱いている疑念に向き合い、分かりやすく丁寧にありのままを述べ、問題の所在をはっきりさせること。それが前提である。

 議員が一方的に言い訳を述べるだけでは説明責任を果たしたことにはならない。

 裏金事件を受け交流サイト(SNS)には、確定申告のボイコットを訴える投稿が相次いでいる。裏金議員の追加納税を求める声は多い。

 裏金には、販売ノルマを超えた分が派閥から議員に還流されるキックバックと、ノルマ超過分を派閥に納めず議員が手元にプールするなどの手法があるといわれる。

 その実態は依然としてはっきりしない部分が多い。

 巨額の裏金づくりが誰の指示で、いつから始まったのか。その目的や具体的な使途が明らかにならなければ、疑惑が解明されたとは言えない。

■    ■

 岸田首相が政倫審参加を表明したことについて政権に近い自民党議員からは、首相が主導して事態の打開を図ったと評価する声が上がっている。

 全面公開による政倫審が開かれることで岸田首相の求心力が高まるかといえば、とてもそのような状況にはない。

 本をただせば、この問題が混迷を深めたのは、首相に指導力が欠け、自民党におごりがあったからだ。

 政倫審が疑惑解明に結び付かなければ、自民党への批判だけでなく、首相自身の進退を問う声が高まるだろう。

 

岸田「出席」は切り札にならず 野党は政倫審5人出席確定まで予算案協議応じず(2024年2月29日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)


★野党が衆院政治倫理審査会に出席要求したのは51人。そのうち出席するとしたのは5人。それもグズグズと出る出ないを繰り返した。これらをグリップできない党幹事長・茂木敏充は近年まれにみる無能幹事長と言える。党存亡の危機に何ひとつまとめられない。ライブでの出席は嫌だ、顔を出したくない。ペン記者だけならいいとあれこれ条件を付けながら「政倫審は原則非公開だ」と出席を申し出た5人が一番威張っているのも解せない。

★業を煮やした首相・岸田文雄が政倫審に出ると言い出したが、28日、野党はこの5人の政倫審出席が確定するまで来年度予算案の協議に応じないことを決めた。つまり官邸が切った首相出席カードは切り札にはならなかった。それどころか茂木は1月16日に政治とカネについて「当事者にはしっかり説明責任を果たしてもらいたい」と言っているが、27日、衆院予算委員会の分科会は茂木の資金管理団体から寄付を受ける政治団体茂木敏充後援会総連合会」で使途の詳細がわからない支出が20~22年に約9400万円あった問題を取り上げ「使い道のほぼ全てをわからないようにした場合はさすがに違法なのではないか。これが違法でないなら何でもありの無法状態だ」(立憲民主党井坂信彦)と総務相松本剛明に詰め寄られている。このありさまでは既に執行部側もガタガタで、首相が踏み込んで事態の打開を図ろうとしても効果がない。

★ただ、政倫審出席が今国会の天王山のように扱われることも片腹痛い。弁明の機会を与えることで国会の機能を保つための政倫審が与野党攻防の本丸や、予算案の駆け引きのようになること自体が茶番と化す。政倫審のチャンスを拒んだら証人喚問に議論を進めればいい。自民党は裏カネ作りはうまいが統治能力の低下が著しいなどと、ばかにされても恥ずかしくないものか。今の自民党は何を言っても国民から信用されない。(K)

 

往生際の悪さ(2024年2月29日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

 

 この往生際の悪さはどうだ。国民に公開するなら出ない、他の議員が出ないなら自分も、やっぱり出るのやめた―。説明責任などそっちのけで駄々をこね、保身に走る姿がありありと

▼裏金事件の政治倫理審査会に出席するかどうかで、もめ続ける関与の議員たち。二転三転、党としての方針も定まらず迷走する自民党。裏金議員の恥ずべき態度はもちろん、もはや組織としても体を成さない醜態ぶりです。これが政権を担う党とは

▼ドタバタの末に岸田首相をはじめ、安倍派と二階派幹部5人の出席で、きょうあすの開催が決まりましたが、首相は何を弁明しようというのか。あれだけ国会で追及されながら、全容の解明に背を向けていたのに

▼だいたい、あのおざなりな自民党の調査でさえ、衆参85人の議員らが関与を認めているのに、わずか5人の政倫審の出席で幕引きを図ろうというのか。真実を語ろうとせずごまかしに終始するなら、偽証罪に問える証人喚問も必要です

▼ことは長きにわたって組織的、計画的に裏金がつくられ、選挙資金などに使われてきた問題。そこに切り込み、企業・団体からの献金を禁止してこそ、裏金をうみだす温床を取り除けるはず。カネによってゆがめられる政治も

▼庶民には増税、自民は脱税―国民の怒りは頂点に達しています。いままで支持してきた人も、あまりのひどいありさまに、もううんざり、嫌気がさしたと。いまや迷わず手を携えて向かう先はみえています。さあ、自民党政治を終わらせよう。