大相撲と暴力 協会の主導で抜本改革を(2024年3月4日『西日本新聞』-「社説」)

 大相撲でまた、暴力行為が発覚した。現場は史上最多の45回の優勝を果たした元横綱が師匠の部屋である。衝撃は大きい。

 日本相撲協会は、後輩力士2人に暴行を繰り返していた幕内の北青鵬、師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)を懲戒処分にした。北青鵬は引退し、宮城野親方は監督義務、報告義務、調査協力義務に違反したとして、協会委員から年寄への2階級降格と3カ月の20%報酬減額を科した。

 協会のコンプライアンス委員会の調査によると、宮城野親方は2022年7月に北青鵬の暴行を知りながら協会に報告せず、1年以上も暴力を黙認した。部外者が関与する口止め工作も判明した。

 協会は理事会で「師匠としての素養、自覚が大きく欠如している」と断じた。春場所は師匠代行が部屋を監督し、4月以降は所属する伊勢ケ浜一門が部屋を預かり、師匠、親方としての指導と教育をすることを決めた。

 宮城野親方の行為は決して許されない。協会も師匠失格の烙印(らくいん)を押す前にやるべきことがあったはずだ。

 宮城野親方は現役時代、勝利に執着した荒っぽい取り口や独善的な振る舞いが問題視された。引退と年寄襲名に際し、協会が規則を守るように誓約書へ署名を求めたのは、指導者としての適性を疑っていたからだろう。協会の責任も問われる事態だ。

 角界では07年に時津風部屋で力士暴行死事件が起きた。元横綱日馬富士の暴行事件も続き、協会は18年に暴力決別を宣言した。コンプライアンス委員会を設置し、研修会を重ね、暴力行為には厳しい処分を科してきた。それでも暴力を根絶できない。

 角界は、師弟が寝食を共にして心技体を磨く独立した部屋の集合体である。この伝統を守り、時代に合った師弟関係を築くための指導は、部屋や一門任せでなく、協会が主導して取り組むべきだ。

 部屋の移籍が基本的にできない力士は他の部屋のことを知らず、思考や判断が独り善がりになりがちだ。

 親方になったら見習い期間を設け、他の部屋を回って視野を広げながら経験不足を補う。継続的な座学と土俵での研修で、知識や技術を共有する仕組みをつくる。こうした抜本的改革が必要だ。

 部屋持ち親方である師匠と部屋付き親方が役割分担し、師匠が弟子の育成に専念する環境を整えることも急務だ。

 地方場所担当の親方は約2カ月にわたり部屋を留守にする。午前中の審判員は朝稽古を見られない。巡業もある。会場の警備はファンサービスでもあるが、外部委託をさらに進めるなど、親方の業務見直しは避けて通れない。

 伝統文化と神事に格闘技の要素が加わった大相撲は国内外の人気を集める。公益財団法人である協会は、力士の人生を預かる責務に正面から向き合わなくてはならない。