馳せ参じない知事(2024年3月4日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 石川県の馳[はせ]浩[ひろし]知事は昨年の元日、東京の日本武道館でプロレスのリングに上がった。61歳ながら、レスラーとして第一線で活躍した頃を思い出させる肉体と動きで観衆を沸かせた

▼華々しかった1年前とは一転し、今年は年明けから間の悪さが目立つ。能登半島地震が起きた元日は東京の自宅に帰省していて、深夜まで県庁に戻れなかった。被災地を初めて訪れたのは岸田文雄首相と同じ2週間後と出足が鈍く、「馳[は]せ参じない馳」と交流サイト(SNS)で皮肉られた

▼2月に発表した県の新年度当初予算案では大阪・関西万博に向けて国際交流に使う予定の1千万円が「復興を優先するべきだ」とやり玉に挙げられた。突然の大地震で対応に追われる激務に加えて厳しい批判にさらされ、踏んだり蹴ったりという気持ちかもしれない

▼非常事態だけに一筋縄ではいかない事情もあるだろう。同情も感じるが、今も避難生活を強いられている被災者のことを考えればそんなことは言っていられない。水道はじめインフラの復旧が待たれている。知事の責務をきっちりと果たしてほしい

▼馳氏がプロレスで得意技とするジャイアントスイングは、相手の両足を脇に抱えて豪快に振り回す。技をかけた側も目が回ってフラフラになるが、それくらいの強い覚悟を発言と行動で示したら、辛口の評価も変えられるのではないか

▼熊本では知事選が迫る。大役を任せるにふさわしい熱意と能力が最もあるのは誰だろう。しっかり見極め、必ず投票所へ馳せつけたい。