角界の暴力 根絶できぬ原因の検証を(2024年3月21日『信濃毎日新聞』-「社説」

 角界で暴力行為が繰り返されている。問題の根は、どこにあるのか。日本相撲協会の構造と体質まで掘り下げた検証が必要だ。

 大相撲春場所に暴力問題の影が差している。場所前に幕内北青鵬関が弟弟子への暴力行為により引退。協会は師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)に監督義務違反で2階級降格などの処分を下した。親方は師匠を外れ、伊勢ケ浜一門の別の親方が宮城野部屋の師匠代行を務めている。

 部屋の所属力士は、次に問題を起こせば「全員クビ」と厳命され不要な外出を禁じられた。これでは暴力を受けた被害者まで“連帯責任”を取らされている格好だ。

 4月以降は部屋を伊勢ケ浜一門が預かり、処遇を協会執行部と協議する。親方や力士を移籍させ、一時閉鎖する案も出ている。

 北青鵬関は昨年秋まで1年余にわたり、弟弟子を日常的に暴行していた。黙認していた宮城野親方監督責任は重大である。

 とはいえ、北青鵬関の地位を考慮しても、過去の事案に比べて処分が厳しいのではないか。

 2019年に鳴戸部屋で三段目力士の暴力を含むいじめが発覚した。師匠の鳴戸親方(元大関琴欧洲)の処分は3カ月の報酬減額10%だった。

 昨年5月には陸奥部屋で幕下以下の力士による暴力が発覚。協会理事の陸奥親方(元大関霧島)は3カ月で20%の報酬減額処分となったものの、理事にとどまった。協会はこの問題を把握していたが、公表しなかった。

 現在の協会幹部も暴力と無縁ではない。芝田山広報部長(元横綱大乃国)は10年、弟子をスリッパなどで殴りけがをさせたとして書類送検された。

 春日野巡業部長(元関脇栃乃和歌)は11年、弟子たちをゴルフのアイアンで殴った。当時、協会は厳重注意にとどめている。

 07年の時津風部屋の力士暴行死事件を受け、協会は再発防止に取り組んでいた。その中で親方が弟子に暴力を振るったことを、深刻に受け止めるべきだった。

 角界には暴力的な体質が根強く残っている。その内部に身を置いてきた協会幹部が、問題が表面化するたびに処断するだけでは限界がある。処分が恣意(しい)的になる可能性を否定できず、執行部の責任を問う発想も抜け落ちている。

 これまで重大な不祥事が起きると、第三者の目も入れて再発防止策が編まれてきた。有効に機能していないのはなぜなのか。その検証から始めなくてはならない。