(2024年3月24日『東奥日報』-「天地人」)

 相撲にけがは付きものというが、力士が取組後に痛めた部位を手で押さえたり、立ち上がれずにいたりするとはらはらするものだ。負傷が回復し元気な相撲を見せてくれれば大喝采。ごひいき力士でもそうでなくてもファン心理は同じだろう。

 2020年8月2日。当時幕尻だった現横綱照ノ富士は7月場所で実に30場所ぶりに賜杯を手にした。両膝のけがと病気に泣いた照ノ富士大関から序二段まで番付が降下。2年半にわたる苦闘を経てこの場所で再入幕、2度目の優勝を決めた。

 相撲担当として東京・両国国技館に詰めており、この感動を味わえた。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士つがる市出身)から優勝旗を受け取った照ノ富士の自信に満ちた立ち居振る舞いが印象深かった。けがを克服し再び栄冠を手にした満足感が国技館を満たしていた。

 110年ぶりの新入幕優勝がかかっていた、きのうの大相撲春場所14日目。賜杯争い単独トップの新入幕・尊富士(五所川原市出身)は2敗目を喫し、優勝の期待はきょうの千秋楽へ持ち越しに。取組後に右足を引きずり車いすで退場した。ひどいけがなのか。心配が募る。

 今場所、途中休場となった照ノ富士は4年前の2度目の優勝後に「笑える日が来た」と喜びを口にした。尊富士はどうだろう。初優勝の思いを笑顔で語ってほしい。多くの県民が祈っている。

 

車いすで退場する尊富士

 

救急車で搬送される尊富士

 

パブリックビューイング会場で尊富士関の取組を見守る母親の石岡桃子さん=23日午後、青森県五所川原市