日本漁船、第五福竜丸が米国の水爆実験で被曝(ひばく)した事故から70年を迎えた。昭和29年3月1日、太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁付近での事故だ。
周辺海域で操業していた木造マグロはえ縄漁船の第五福竜丸は空から灰状の放射性降下物を浴び、23人の乗組員全員と船体、漁獲物が被曝した。
当時の記憶を持つ人は人口の約1割まで減ったが、原爆を起爆装置に使う水爆の破壊力の大きさを忘れてはならない。
冷戦下の当時、米国とソ連はともに水爆開発にしのぎを削っていた。第五福竜丸の被曝で核兵器廃絶を求める声が世界に広まったが、現実には、核の脅威は一向になくなっていない。
中国は大量の核弾頭をさらに増やし、北朝鮮は核・ミサイルの開発に余念がない。ウクライナに侵攻したロシアは核兵器の使用をちらつかせている。
核兵器がもたらす惨禍を繰り返さず、平和を守り抜くためにも、日米同盟に基づく核抑止の重要性から目をそらすわけにはいかない。
同時に理解しておきたいのが核エネルギーの平和利用の大切さだ。これを発展させるのは人類に備わる理性である。
原爆と水爆は、天文学的なエネルギーを生み出す核分裂反応と核融合反応を大量殺傷・破壊兵器として使う。原子核の反応原理を用いる点は同じでも、目的が全く異なるのが原子力発電であり核融合発電だ。
原発は原爆と同一視されて毛嫌いされる傾向もあるが、近年は脱炭素の安定電源としての評価が国際的に高まっている。
核融合を発電に利用する取り組みは、超高度な科学技術力を要するために開発途上だが、着実な前進を見せている。
約20年前から日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7極による「国際熱核融合実験炉(ITER)」計画が進行中だ。無限のエネルギー獲得という人類の夢の実現に向けた炉心の組み立て現場では協力関係が保たれているという。
第五福竜丸の被曝から70年後の今、水爆の核融合をクリーンな発電に生かせる戸口に立っている。既存の原子力発電も改良が進む。新たな技術の実現を妨げることがあってはならない。原子核のエネルギーは人類の豊かで持続可能な暮らしのために使うべきものである。