「中堅企業」育て日本の成長力底上げを(2024年3月4日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 

 


政府は成長をめざす「中堅企業」への支援を手厚くする

 日本経済の成長力を底上げするには、企業の新陳代謝が欠かせない。中小企業を卒業し、さらなる成長をめざす「中堅企業」を手厚く支援したい。

 政府は従業員2000人以下の企業を、新たに「中堅企業」と位置づける産業競争力強化法の改正案を閣議決定した。今国会での成立と年内の施行をめざす。

 現行法は製造業の場合、従業員が300人以下または資本金が3億円以下の企業を「中小企業」とする。それ以外はひとくくりに「大企業」として扱う。

 中小企業には税制面などでさまざまな優遇策がある。しかし大企業の仲間入りをしたとたん、こうした支援は受けられなくなる。トヨタ自動車のようなグローバル企業と、地域の雇用を支える売上高が数百億円規模の会社が同じように扱われるわけだ。

 中小企業のまま居続けたいために、あえて事業規模の拡大を求めない企業も少なくないとの指摘は前からある。

 中小企業を優遇する制度が成長への意欲をそぎ、生産性の低い企業を温存しているとしたら本末転倒だ。日本経済の構造改革を進めるためにも、大企業になる前の「中堅」という枠をつくり、競争力のある中小企業に一段の成長を促す意義は大きい。

 経済産業省によると、新たな分類では現在1万社超ある大企業のうち、およそ9000社が中堅企業として支援の対象となる。

 たとえば2024年度の税制改正では、賃上げする中堅企業に優遇枠を設ける。

 大企業なら給与総額の25%を法人税から差し引くには、前年度より7%以上の賃上げをしなければならない。中堅企業の場合、4%以上の賃上げで同じ優遇を受けられるようになる。

 賃上げや投資に積極的な企業を「特定中堅企業」とする制度も設ける。これらの企業が設備投資やM&A(合併・買収)を進めやすいよう集中的に支援する。

 日本では中小企業から中堅企業になっても、そこからさらに大企業に成長する割合は1割ほどにとどまる。3割の米国、2割強の欧州に比べ差は大きい。

 成長をあきらめた企業は賃上げができず、従業員を確保できなくなり、やがて退場を迫られる。新制度をきっかけに、成長志向の中小企業が一つでも増えるよう期待したい。