独居の高齢者 行政の支援で孤立を防ぎたい(2024年3月4日『読売新聞』-「社説」)

 独り暮らしの高齢者が安心して生活するには、周囲の配慮や支援が欠かせない。政府と自治体が知恵を絞り、手を差し伸べていきたい。

 身寄りのない高齢者の支援策について、岸田首相は昨年末、省庁横断で検討するよう指示した。

 2020年の国勢調査によると、65歳以上の単身世帯は672万世帯に上り、高齢者の5人に1人が一人暮らしだった。10年前の1・4倍に増えている。

 核家族化が進み、三世代で同居する世帯は少なくなった。夫婦で暮らしていても、配偶者に先立たれれば、独り暮らしになる。

 元気なうちはともかく、体力や判断力が低下すると金銭管理や行政の手続きが難しくなることがある。死後、葬儀や遺品整理をする親族が見つからず、行政が対応に追われる事例も頻発している。

 厚生労働省は、身寄りのない高齢者の実態調査を行っている。どのような困りごとを抱えているのか、課題を洗い出してほしい。

 近年、問題になっているのは、介護施設への入居時や病院への入院時の手続きだ。施設や病院は子などの「身元保証人」を求めるケースが多いが、独居の高齢者が保証人を見つけられず、入所を断られることもあるという。

 国は、保証人がいないことを理由に、施設が高齢者の受け入れを拒んではならない、と通知している。ただ、施設側には、緊急時の連絡先の把握や、支払いの保証を確実にしておきたいという事情があるのだろう。

 最近は、身寄りがない人の「身元保証」を代行する民間事業者が増えている。高齢者が事業者と契約を結び、身元保証人になってもらう仕組みで、事業者が家族に代わって財産管理や死後の手続きなどを行うサービスもある。

 だが、こうした事業を監督する官庁はなく、金銭を巡るトラブルも起きている。16年には、都内の事業者が高齢者から集めた預託金を不正に流用していたことが発覚し、契約者に返還されないという被害が発生した。

 独り暮らしの高齢者は今後も増えていく。「身元保証サービス」を安心して利用できるようにするには、政府が何らかの規制を設けるべきではないか。事業者を審査し、悪質な業者を排除する仕組みを導入することも一案だ。

 高齢者が孤立を防ぐには、日頃から地域に関わり、人とのつながりを保つことが大切だ。いざという時に備え、自らに関する情報をまとめておくのも有効だろう。