介護報酬改定 訪問サービス維持図れ(2024年2月21日『秋田魁新報』-「社説」)

 厚生労働省は介護事業所の収入に当たる介護報酬の2024年度改定で、介護職員の賃金底上げに重点配分する方針を決めた。全体は1・59%のプラス改定で、うち0・98%を賃上げに充てる。他産業より賃金が低いため人手不足は深刻。その解消へ処遇改善は待ったなしだ。

 報酬のうち基本料に当たる部分は特別養護老人ホームなどで引き上げる一方、訪問介護サービスは引き下げの方針。これに対し「在宅介護が破綻する」と経営悪化へ懸念が高まる。在宅の要介護高齢者の生活を脅かしてはならない。訪問介護維持のため見直しが求められる。

 訪問介護ホームヘルパー介護福祉士が利用者の自宅を訪ね、日常生活を支援する介護保険サービス。全国で100万人以上が利用する。排せつや入浴、食事の介助、掃除や調理、洗濯、通院介助などを行い、暮らしを支えている。

 訪問介護の介護報酬引き下げ改定は、経営が安定しているとの理由だ。厚労省の最近の経営実態調査では訪問介護事業所の平均利益率が7・8%と良好だったという。

 ただ利益率は事業所ごとの差が大きいと指摘される。集合住宅に併設され、入居者を効率良く訪問できる事業所は利益率が高い。これに対し利用者宅を時間をかけて巡回する小規模事業所は経営がより難しい。

 利用者の住宅が点在するような過疎地域などではなおさらだ。もっときめ細かな調査と算定が必要となる。

 要介護認定を受けた高齢者が希望通りに介護施設へ入所するのが難しいケースもある。在宅介護を希望する高齢者の意思も尊重されなくてはならない。支える家族がいる場合でも訪問介護による支援は心強い。

 遠距離に暮らす家族などが介護する場合、訪問介護は「命綱」的な存在だ。利用が困難になれば働き盛りの介護離職が増える恐れもある。それは社会的に大きな損失になろう。一軒一軒を訪問して回るヘルパーらの待遇改善と事業所の維持のため、むしろ報酬をもっと手厚くすべきだ。

 中小事業所から上がる「経営難は避けられない」との悲鳴に政府はしっかり耳を傾けるべきだ。人手不足の加速や、地域からの事業所撤退で、在宅の要介護者が訪問介護を受けられなくなる事態は何としても避けなくてはならない。

 高齢化の進行で当面は介護費や医療費の膨張は続くだろう。岸田文雄首相は「次元の異なる少子化対策」のため、国民負担を増やさずに社会保障の歳出改革で1兆円超の財源を捻出すると高い目標を掲げる。そのために削ってはならない報酬まで引き下げようとしてはいないか。

 保険料や利用者負担の抑制、事業所の経営安定、いずれも大切だ。政府には国民の安心な老後の暮らしのため、できる限りの工夫と努力が求められる。